LINEマンガ新連載『ノアは方舟』気鋭の漫画家・ぽむが描く 「生きづらさ」を抱える現代に美しく切ない夢を見せてくれる注目作
LINEマンガでこの12月より、注目の新連載がスタートした。縦スクロール&フルカラーのオリジナルwebtoonで、タイトルは『ノアは方舟』。前作『先輩はおとこのこ』が国内外で大きな話題となった気鋭の漫画家・ぽむ氏の新作だ。
施設に保護されている人魚のギノは、人生に絶望していた。常に世間からの好奇の目にさらされ、「健気な弱者」を演じさせられては、ビジネスに利用される日々。ギノを使ってたんまり儲けた“大人”たちが、ニヤけたシルエットで会話をしている。「こんなに金があつまるとは……」「それくらい当然だろう 飼育代がかかるからな」「あんな気味悪い子供 うち以外どこも引き取らない」。生まれたときから「全て滅んでしまえばいい」と思って生きてきたギノは、人知れず「…死ねよ」と呟く。その瞬間、願いを聞き届けるかのように世界は水没していきーー。
物語のはじまりは、上記のようにやりきれない内容だ。本作は壮大なファンタジーだが、冒頭のエピソードに象徴されるように、小さくても切実な「心の機微」が繊細に描かれている。かわいいものが大好きな“男の娘”を主人公に据えた前作『先輩はおとこのこ』を読んでもわかるように、ぽむという作家は、フックのある設定のなかで普遍的なメッセージを伝えるのがきわめて上手い。
水没していく世界のなかには、ギノを気にかけてくれる人もいた。罪悪感と解放感がブレンドされた複雑な気分のなかで、彼は「姫」と名乗る謎の少女と出会う。気がつけばそこは宇宙船のなか。新しい環境に生物たちを運ぶ、まさにノアの方舟のような空間だ。
細かなネタバレは控えるが、「姫」はシリアスなギノと対照的なコミカルなキャラクターで、多くの謎を残したまま、ギノの心を少しずつ溶かしていく。いつでも常識や偏見に傷つけられてきたギノと、そんなものにまったくとらわれない、ぶっ飛んだ「姫」ーーそのコントラストが楽しいため、冒頭から感じられていた悲しい気分はあとを引かず、不思議な切なさを残して大きなストーリーが展開していく。
おとぎ話の絵本のようでもあり、アニメーションのようでもあり、しかし優れたマンガな本作。webtoonという形式を活かしたテンポのよさと色彩豊かな表現が、明確に物語を捉えきれない序盤においても、読者を飽きさせない。そうこうしているうちに、この不思議で壮大な世界から抜け出せなくなる。
webtoonといえば韓国作家・スタジオの作品が有名だが、ぽむ氏は明らかに日本発のーーもしかしたら日本“初”のスター作家になろうとしている。「コマ」のサイズや見せ方に制約がある縦スクロールのビジュアルでも、力強い“見せゴマ”を作り出す画力と緩急のつけ方。次の話が気になる展開の作り方も、単話購入orレンタルが基本のwebtoonに最適化されている。「異世界転生」や「リベンジ/復讐」など刺激的なトレンドの外で、多くのファンを魅了する作品を生み出せるwebtoon作家は多いとはいえず、『ノアは方舟』をきっかけに新しい地平を切り拓いていきそうな気配だ。
まだ10話と先が読めない本作だが、現時点で言えるのは、「生きづらさ」を抱えている人に、美しく、楽しく、切ない夢を見せてくれる作品だということだ。ゆるい空気で進むパートのなかで、不意に「取り返しのつかなさ」を感じるような、ドキッとする描写が織り交ぜられるため、気を抜くことができない。ギノと姫の旅がいったいどんな展開を迎えるのか、漫画ファンにあらたな楽しみが生まれた。
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