LINEマンガ『全知的な読者の視点から』異世界転生・チート系主人公によくある物語とは一線を画す緻密な構成力が凄い

全知的な読者の視点から

 縦スクロール&フルカラーの「ウェブトゥーン」が人気を拡大するなかで、マンガ好きを唸らせている作品がある。LINEマンガで連載中の『全知的な読者の視点から』だ。“異世界転生/チート系主人公”作品が好きだけれど、最近はパターンが読めてしまって……という読者は、新鮮な興奮を味わえるだろう。

 独特のタイトルとウェブトゥーンという形式から想像できるように、本作は韓国発の大人気作だ。原作は1億PVを突破したウェブ小説で、日本で言えば“なろう(小説家になろう)系コミカライズ作品”のトップランナーのような存在だと言える。SNS時代、かつてとは違いトレンドはタイムラグなく、国境を越えて共有されており、本作のコンセプトは日本の読者にとっても違和感がない。同時に新鮮に感じられる要素が多く、フルカラーのリッチな作画も含めて、好きな人には間違いなく“ぶっ刺さる”ものになっている。

 平凡で冴えない27歳の会社員・ドクシャは10年以上、『滅亡した世界で生き残る3つの方法』(滅生法)という流行らないウェブ小説を読むことを生きがいにしてきた。もう長い間「コメント:1件/アクセス:1件」の状況が続いており、つまり“読者”は彼ひとりだけ。世間から取り残されているという感覚とともに、<俺の人生のジャンルが『リアリズム』ではなく 『ファンタジー』だったら…俺は……主人公になれただろうか>という思いが去来する。ドクシャは現実世界において、「主人公」ではなく「読者」なのだーー。

 きっと多くの人が共感できる導入だろう。しかし、少し卑屈で、諦念を感じるドクシャの印象は、すぐに変わることになる。彼が『滅生法』の最終話を読み終えたとき、作者から不可解なメッセージが届き、小説に描かれたモンスターや、登場人物が出現。「人生のジャンル」が変わり、自分だけが唯一、結末を知る物語の中に放り込まれるのだ。ドクシャは『滅生法』の知識と、読破したことで得られた“特典”としての能力で、無慈悲な世界を生き抜いていくことになる。

 面白いのは、『滅生法』という物語自体が、現実の世界が崩壊していくなかで、主人公(ドクシャとは別の存在だ)がループを繰り返しながらある結末に向かっていく……という複雑な構造を持っていることだ。「現実世界が剣と魔法のファンタジー世界になり、主人公が魔王を倒すために戦う!」のようなシンプルな話ではなく、緻密な設定への理解が進むごとに、楽しさが増していく。

 世界が変化した初期の段階で、一部のマンガ好きは『GANTZ』(奥浩哉)を思い出すかもしれない。つまり、現実とファンタジーの境界のような世界に巻き込まれた人々を管理する謎の存在(本作では「トッケビ」と呼ばれる)がいて、登場人物たちはその指示に翻弄されながら、RPGのようにシナリオをクリアすることで生存を勝ち取っていく。痛快なのは、ゲームマスターのように絶対者として振る舞うトッケビに対して、『滅生法』という“攻略本”に相当するテキストを持っているドクシャが優位に立つことだ。いわば『GANTZ』のあの球体を論破し、自分に従わせるようなカタルシスがある。

 複数存在するトッケビたちが人々に試練を課し、“物語”を盛り上げようとする理由も、また面白い。彼らはストリーマーであり、神話の神々やそれに近しい歴史上の偉人など、超常的な存在である「星座」たちが視聴するチャンネルの運営者なのだ。星座たちは人々の行動を好ましく思えば“投げ銭”を行ってサポートするし、本当に気に入れば「後見星座」となり、特殊な能力を付与することもある。

 こちらもマンガ好きに分かりやすい例を挙げると、歴史上の強者と神々が戦う『終末のワルキューレ』のようなワクワク感だ。古今東西の神々はともかく、「偉人」は(少なくとも序盤においては)韓国の歴史上の人物が中心で、名前自体に馴染みはない人がほとんどだと思うが、作中でその逸話などがうまく説明されているので置いていかれることはない。日本で言えばあの人か、という関連づけて考えるのも楽しい(実際、現在進行しているエピソードでは「日本」もかかわってくる)。

 ウェブトゥーンは単行本化を前提としておらず、単話レンタルor買い切りというビジネスモデルがメインになるため、「出し惜しみなく、1話入魂で次回が気になるエピソードを描く」という熱量が魅力のひとつだったりする。破綻を恐れず全力で走り続けた、かつての週刊少年マンガのような勢いや楽しさがあるが、『全知的な読者の視点から』は質の高い原作がついていることもあり、過剰な煽りもなく、緻密な世界観をじっくり楽しめる作品だ。その上で、フルカラーのリッチな作画で“読むアニメーション”のような新たな物語体験を与えてくれる、マンガ好きにとって理想的なウェブトゥーンと言える。まずは無料で一気読みできる12話までをチェックしていただきたい。

LINEマンガ『全知的な読者の視点から』を読む
https://lin.ee/nLRUrXH/qtpo

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