竜騎士07のノベルゲーム『ひぐらしのなく頃に』が20年愛される理由。漫画家・旭が語る作品の魅力

熱心なファンが公式の作家になるまで

――ここからは、旭先生が現在手掛けている『ひぐらしのなく頃に 鬼』について伺いたいと思います。そもそも、10代の頃からどんな同人誌を描いていたのでしょうか。

旭:原作に準拠する、魅音と詩音を中心にした細やかな漫画を描いていました。私はひたすら原作が好きすぎて、より深堀りしたい欲求があるんです。例えば、このエピソードとこのエピソードの間にどんな出来事があったのかと論文のように考察する内容で、『ひぐらし』からいただいた感動を誰かに伝えられれば良いな、という気持ちで描いていました。もちろん子どもの時に描いたので、出来は恥ずかしいものですが……。竜騎士07先生の場合は少し特殊で、原作も同人作品として出されているので、同人活動をするサークルを寛容に受け止めてくださるのもありがたかったですね。

旭が手掛けた、『ひぐらしのなく頃に』発売20周年記念で発売されたボードゲーム『ひぐらしのなく頃に-我-』のイラスト。

――そんな思いが竜騎士07先生に届いて、新作漫画を描くことになったわけですね。

旭:様々な機会で『ひぐらし』関係の仕事をするのが夢だと話していたら、双葉社さんで企画を出させていただき、様々な方のご助力があって、今回のご縁につながりました。私は公式で関わらせていただく機会があるなら、原作がより面白く読めるものを創りたいという思いがありました。原作に散りばめられつつ深くは描かれていない要素を解き明かしながら、『目明し編』で触れられている園崎家を中心に過去を掘り下げるお手伝いをしたいと提案しました。『ひぐらし鬼』を描かせていただけているのは本当にファン冥利に尽き、光栄だと思います。特に、園崎家を推している私にとって、“鬼”を冠する物語を綴れることは特別なことなのですから。

――念願叶って実現した『ひぐらし鬼』ですが、どんな方に読んでいただきたいと考えていますか。

旭:原作を好きな方には、より原作を楽しんでもらえるように。また、『ひぐらし』や竜騎士07先生の作品にまだ触れていない方には、その世界観に触れるきっかけになるといいなと思います。この漫画は『綿流し編』と『目明し編』につながる園崎家の話で、事実上の原作の過去編ですので、原作を知らない方でも読んでいただけるように工夫しています。もし、まだ『ひぐらし』に触れていない方がいらっしゃったら、この漫画の読後に竜騎士07先生の最高の原作を読み、より楽しんでほしいと願いながら描いています。

オリジナル連載『殺彼-サツカレ-』で、数々の男性を描いた旭。竜騎士07の影響も随所にみられる。新潮社・バンチコミックス/刊。

――旭先生といえば、オリジナル作品の『殺彼-サツカレ-』でも絵にも相当なこだわりをお持ちであることがわかります。

旭:私は物語を作ることは好きなのですが、漫画における臨場感を自分の絵で出せているのか……と、いつも自問自答しています。『殺彼-サツカレ-』でも作画は共作の先生に凄く助けていただいていますので、正直、『ひぐらし』の世界観を私の漫画力で伝えきれるかどうか不安ではあります。昔から憧れの夏海ケイ先生をはじめ、歴代の『ひぐらし』関連のコミカライズを担当された漫画家さんは、絵の力が強い方ばかり。遜色ないものに仕上がっているか、物語を伝えきれているのかと日々模索しながら描いているところです。力不足の部分は竜騎士07先生への作品愛でなんとか乗り切りますので、ぜひ読んでくだされば幸いです。

――旭先生の『ひぐらし』愛がひしひしと伝わってきます。そして、『ひぐらしのなく頃に 鬼』は12月12日に1巻が発売されました。今後の抱負をお聞かせください。

旭:私は、竜騎士07先生の女の子キャラたちは完璧な完成度だと思っています。感銘と影響を受けた私ができることは、僭越ながら『ひぐらし』の世界に魅力的かつ悲劇的な男の子キャラをプラスして、より世界観を魅力的にしていくお手伝いができればと思って提案した脚本でもあります。これまで『殺彼-サツカレ-』などで、癖のある男の子キャラを描いてきた経験を生かせればと思っています。ぜひとも『ひぐらし鬼』の今後の展開にご期待ください! また、竜騎士07先生の新作や旧作、及び『ひぐらし』の展開を1人のファンとしても凄く楽しみにしています。これからも、できることを力添えさせていただければ嬉しいです。

『ひぐらし』が後続のクリエイターに与えた影響

  インタビューを終えて、旭の溢れ出す『ひぐらし』愛に圧倒されっぱなしであった。旭はその経歴をみても、当時の美少女ゲームから多大な影響を受けたクリエイターといえる。竜騎士07の作品に触れて同人誌を描き始め、漫画家として活動するに至っている。また、『ひぐらし鬼』の執筆と並行しながら、CRAFTWORKの新作美少女ゲーム『Geminism-げみにずむ-』の制作にも携わる。

 2000年代前半は『ひぐらし』を筆頭に、オタク文化を語るうえで欠かせない、歴史に残る美少女ゲームが相次いで誕生した時代であった。昨今、この時代の美少女ゲームを見直す動きがあるが、ゲーム業界は言うに及ばず、漫画や、アニメに与えた影響は計り知れないだろう。なかでも、多くのクリエイターを引き付け、刺激を与えた点でも『ひぐらし』の評価が今後高まっていくことは間違いないと思われる。『ひぐらし』の20周年をきっかけに、美少女ゲーム文化の再評価が進むことを筆者は強く願うものである。

関連記事

インタビュー

もっとみる

Pick Up!

「インタビュー」の最新記事

もっとみる

blueprint book store

もっとみる