【ライトノベル最新動向】12年ぶりスニーカー大賞の大賞受賞作や「このラノ」ランクインのラブコメ新作 12月発売の注目作解説

12月発売の注目ラノベを解説

 四半世紀を超える歴史の中で、大賞作品が出たのがわずかに5回という"狭き門"だったスニーカー大賞で、12年ぶりで6回目の大賞作品となった、すめらぎひよこ「異端少女らは異世界にて」が、12月1日に『我が焔炎にひれ伏せ世界 ep.1 魔王城、燃やしてみた』として登場。ライトノベルの代名詞にもなっている谷川流『涼宮ハルヒの憂鬱』と同じ大賞作品の列に並ぶということで、注目には大きいものがある。

 ジャンルで言えば異世界転生・転移物。「何かを燃やしたい」という欲求を持っていたホムラという少女が異世界に招かれ、そこで同じようにどこかヘンなところがある女子高生たちとともに異世界を救ってくれと頼まれる。敵は魔王だったり悪党だったり。それらを圧倒的な火力で制圧していく。

 そんなホムラのキャラクターからは、爆裂魔法ですべてを吹き飛ばす暁なつめ『この素晴らしい世界に祝福を』のめぐみんに似た雰囲気が感じられる。加えて涼宮ハルヒのような傍若無人さも。選考会で賛否両論を浴びながら、「とても大きなポテンシャル」(長谷敏司)があると期待され、受賞に至った作品が改稿を経て登場したからには、発火量もとてつもない域へと達していそう。個性的過ぎる少女たちが暴れ回る爽快感を味わえる一作。Mika Pikazoが描くイラストにも注目したい。

 スニーカー文庫からは、スニーカー大賞で金賞となった明治サブ『腕を失くした璃々栖 ~明治悪魔祓師異譚~』もいっしょに刊行。こちらは明治期の日本を舞台に、瀕死だったところをなぜか腕がない少女の悪魔・璃々栖と契約し、蘇った悪魔祓師の少年・皆無が繰り広げる異能バトルを楽しめそう。大正時代が舞台の『鬼滅の刃』よりさらに古い明治の日本がどのように描かれているかも気になる作品だ。

 新人賞で世に出ても、その作品なり別のシリーズなりでコンスタントに活躍し続けられるかは別の話。その意味で、12月9日に電撃文庫から刊行の菊石まれほ『ユア・フォルマV 電索官エチカと閉ざされた研究都市』と逆井卓馬『豚のレバーは加熱しろ(7回目)』はともに電撃小説大賞の大賞や金賞を受賞したデビュー作が、順調に巻を重ねつつ評判を伸ばしている。

 「ユア・フォルマ」シリーズはアンドロイドが普及した近未来の世界で、人間の刑事エチカとアンドロイドの助手のハロルドがバディを組んで捜査にあたるSFミステリー。謎のAI「トスティ」の秘密を探るため、ドバイにある技術研究都市に潜入したエチカとハロルド待ち受けているものは? 最新刊でもスリリングな展開とアンドロイドの心というSF的なテーマを楽しめそうだ。

 転生したら豚になっていた大学生が、異世界で出会った美少女にお世話されながら旅をするストーリーは、スライムや蜘蛛に転生して最強に成り上がっていくような展開からは外れていつまでも豚のままでいながら、知恵をめぐらせ少女を助けていく活躍ぶりが痛快。最新刊でも美少女2人に挟まれる豚を羨ましく思いつつ、その男気に感嘆できそうだ。

 12月15日発売のGA文庫では白鳥士郎『りゅうおうのおしごと17』が登場。小学生で女流棋士となった雛鶴あいが、女性のプロ棋士に挑み始めて浴びる数々の試練から、現実の将棋界では幾度となく挑まれながら、どうして女性のプロ棋士が未だに誕生していないかが伺えそう。一方で、限界を突きつけられながら突破しようとあがく主人公の九頭竜八一に、対局の華やかな姿ばかりが伝えられがちなプロ棋士たちの苦悩を見て取りたい。

 長く続く人気シリーズでは、12月20日にガガガ文庫から浅井ラボ『されど罪人は竜と踊る22 去りゆきし君との帝国に』、12月23日にMF文庫Jから長月達平『Reゼロから始める異世界生活32』が登場。「され竜」は最終部の開宴となりここから3カ月連続で刊行予定。ガユスとギギナのコンビが〈宙界の瞳〉を探るために後アブソリエル公国へと潜入する。「Re:ゼロ」最新刊は剣奴孤島ギヌンハイブへと飛ばされたスバルが荒くれたちを従え次の戦いに挑む。大長編ならではの分厚い世界観にどっぷりと浸れる最新刊だ。

 ラブコメ人気も依然として続いている様子。宝島社の『このライトノベルがすごい!2023』で文庫部門の5位に入った燦々SUNによるシリーズ最新刊『時々ボソッとロシア語でデレる隣のアーリャさん5』がスニーカー文庫から発売。文庫部門9位の三河ごーすとによる『義妹生活7』がMF文庫Jからそれぞれ登場して人気を押し上げそう。

 新しいところでは、「モンスター娘のお医者さん」シリーズンの折口良乃による『女怪人さんは通い妻』が12月23日にダッシュエックス文庫から刊行。正義の企業「リクトー」の怪人対策部で働く白羽修佑の家の隣に、悪の組織の女怪人で幹部だったナディブラが越して来て、修佑の面倒を見ようとする。他の女怪人たちも寄って来て起こるドタバタ劇が楽しそう。

 こちらは純愛系。ガガガ文庫から刊行の中西鼎『たかが従姉妹との恋。』は、少年が小学6年生の時に始めてキスをした4歳上の従姉妹と高校生になって再会。大学2年生となった相手との甘くて苦い恋物語が幕を開ける。機村械人がGA文庫から出す『カノジョの姉は……変わってしまった初恋の人』も初恋の人に再会する話。彼氏の影響で悪い方向に進み始めているその女性をどうにかしたいと願う少年の執着と純愛に触れられそうだ。

 『15歳のテロリスト』が20万部のヒット作となった松村涼哉が、12月23日にメディアワークス文庫から新刊『暗闇の非行少年たち』を刊行。少年院を出たものの現実になじめずにいた水井ハノは、ティンカーベルを名乗る人物からメタバースへと誘われて入り、そこでの他の子供たちとの交流を通して居場所を見つけていく。ところが、ティンカーベルが消えてしまいハノたちは戸惑う。生きづらさを感じている少年少女の気持ちを捉え続ける作家が示す道を見極めよう。

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