中国発縦読みマンガで隆盛の『大女主』ものとは? 勝ち気な女性たちが描かれる注目作3選

   
 縦読み形式のマンガ「ウェブトゥーン」の人気が拡大している。韓国で生まれ、スマートフォン時代に最適化されたこのフォーマットは世界的なトレンドになっており、日本でも大手出版社を巻き込み、急速に制作体制が拡充されている状況だ。

 かつては「コマ割りマンガの簡易版」のようなイメージも少なからずあったウェブトゥーンだが、コマがシームレスにつながっていく映像的な表現、単行本モデルではなく“単話買い切りorレンタル”が一般的であることに起因する、思わず続きが気になるストーリーテリングと1話あたりに注がれる高い熱量、そしてフルカラーのリッチな作画……と、マンガ表現として独自の進化を遂げている。

 現状で存在感が際立っているのは、韓国発の作品たちだ。日本でもドラマ版が大ヒットを記録した『梨泰院クラス』、11月4日よりNetflixで独占配信されるアニメ作品『外見至上主義』など、韓国のウェブトゥーンを原作としたメディアミックスも進んでおり、「LINEマンガ」や「ピッコマ」等のマンガ配信サービスにおいては、日本向けにローカライズされた人気作が多くの読者を獲得している。

 そんななか、日本のマンガファンに向けて新たな地平を開拓しているのが、2022年5月にローンチしたマンガアプリ「ブックライブfun」だ。同アプリが注力している分野のひとつに、いまウェブトゥーンが隆盛期を迎えている中国の作品がある。野心的なのは、例えば「異世界転生」のような日本でも固定ファンがいるジャンルより、中国最大級のマンガプラットフォーム「快看(クワイカン)」をはじめとする25社以上の権利元から、「本国でヒットしている、独自色のある作品」にフォーカスして配信していることだ。

 マンガ・アニメ作品においては、日本が流行の発信源になるケースがまだ少なくない。以前であれば、それが海外のクリエイティブに影響を与えるまでにタイムラグがあったが、いまはSNSを通じて即座にトレンドが共有される。つまり中国でも、日本と同様に多くの「異世界転生」作品が生まれているわけだが、「ブックライブfun」はそうした計算できる作品に注力せず、刺激を求めるマンガファンに、新たな選択肢を提示しようとしている。

 それでは、いま中国ではどんな作品が人気を博しているのか。BookLive社でライツビジネス部長を務める梁俊明氏によれば、「中国でも女性の台頭意識が高まっていることを背景に、勝ち気で自立した女性が登場する『大女主(ダーヌージュ)』と呼ばれるジャンルが流行っている」という(漫画アプリ「ブックライブ fun」の挑戦・後編 コンテンツ輸入の仕掛け人が語る、中国発縦スクロール漫画の特徴と現地の熱狂)。スマートフォンで気軽に楽しめるデジタルマンガには、そもそも女性読者を開拓してきた経緯があるが、「大女主」系作品は男性読者にも人気があるそうだ。元来、少女マンガ人気が高いとされる中国で、必然的に勃興したジャンルとも言えるだろう。

 「ブックライブfun」で配信されている、代表的な作品をいくつか見てみよう。まずは、『ヒョウ系彼氏の恋愛戦略』。日本の作品だと言っても違和感のないタイトルにローカライズされているが、竹を割ったようにサクサク進むストーリーが面白い。主人公は、結婚式当日にフィアンセと親友の不倫が明らかになり、「世界で一番惨めな女」と自嘲した帰国子女の女性・可奈子。そこでドロドロとした愛憎劇が繰り広げられることはなく、仕事に新しい恋愛に、まさに「大女主」という頼もしい立ち回りを見せる。
   

©Cloud House

 『灰かぶりの社長夫人』も注目作だ。主人公は、一度入院したら大半の患者が一生そこから出られないと言われている、とある精神療養病棟で5年間過ごしていた、美雪という女性。ある目的を果たすため、幼なじみでもある財閥の社長に「偽装結婚」を迫り、権謀術数も駆使して戦っていく。経済界を舞台にしたサスペンス×強いヒロインという作品は、日本でも韓国でもあまり見掛けられず新鮮で、絵柄も美しい。

©Nanjing Fenbu Culture Development Limited

 『没落令嬢は社畜になった』も同じく経済界が舞台になっているが、よりコメディ色の強い作品だ。没落した橋立グループを再建するため、社長になった令嬢の麗花。サクセスのためには男性の弱みを握り、陰で罵られることも厭わないパワフルなキャラクターで、打算的だが少し抜けていたり、意外と純粋な部分が見え隠れしたりするのが、同性異性問わず人気が高い理由だろう。

©Dong Yue Chu Er/Hong Shu Wang+Yanqiang Comics/Kuaikan Comics

 いずれも、「成り上がり」や「復讐(リベンジ)」という、日本や韓国のマンガ/ライトノベルと同様のトレンドを押さえながら、「大女主」系主人公という、中国ならではのスパイスが利いた意欲作だ。転生モノでは「異世界」より「古代宮廷世界」への転生作品が多く、ローカライズの難しさも感じるところだが、こちらも中国ならではの情緒が感じられて面白い。

 コマ割りマンガにおいても、早くから3DCGを導入し、制作工程での役割分担を進めるなど、日本とはまた違う形で進化を模索してきた中国。最新のシーンを追いかけ、好みの作品を応援することは、14億人超という、世界一の人口を抱える同国で市場規模が拡大し、巨大な才能が世に出る可能性を高めるという意味でも、マンガファンにとって近い将来の楽しみを増やす“投資”にもなるかもしれない。

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