『HUNTER×HUNTER』の魅力は“二面性”のハイブリッドにあり 漫画編集者が語る冨樫義博の強み

 2018年11月から休載していた「週刊少年ジャンプ」の人気作『HUNTER×HUNTER』(冨樫義博)の連載再開が発表され、約4年間、「それでも続きが読めるなら」と待ち続けた漫画ファンが歓喜している。そこまで読者を惹きつける『HUNTER×HUNTER』という作品、あるいは冨樫義博という作家の魅力はどこにあるのか、漫画編集者で、『コロナと漫画~7人の漫画家が語るパンデミックと創作』などの著作で漫画評論も展開する島田一志氏に聞いた。

 冨樫作品をリアルタイムで読んできた島田氏は、『HUNTER×HUNTER』をひとつの到達点として、過去作を次のように振り返る。

「1990年12月より連載を開始した『幽☆遊☆白書』は、当初はラブコメテイストの作品でした。その時点で非常によくできた漫画でしたが、1990年代のサイコホラーブームに呼応するところもあったのかーー『ジョジョの奇妙な冒険』にもシリアルキラーの吉良吉影が登場したように、精神的な闇の部分が描かれるように変化していった。つまり、少年漫画の王道的なストーリーテリングに、本人が持つダークサイドの想像力が加わり、『幽☆遊☆白書』は、そのバランスが制御されないまま進んでいった感覚があります。そこに凄みがあった。一方で、『レベルE』はダークさを含め、冨樫さんのマニアックな部分が炸裂していて面白い。そうした魅力的な要素のバランスが整い、うまくミックスされたのが『HUNTER×HUNTER』だと思います」

 心優しく圧倒的なパワーを持ち、仲間にも恵まれた『HUNTER×HUNTER』のゴン・フリークスは、所々にぶっ飛んだ部分こそあれ、基本的には少年漫画の王道的な主人公と言えるだろう。しかし、そんな彼が遭遇する事件や戦いは、ときに心を軋ませるような“暗さ”を持ったシビアなものが多く、本人の闇の側面も描写される。やはり「王道的なポップさ」と「マニアックなダークさ」が高次元で共存した作品であり、「そのことは絵柄にも表れていると思います」と、島田氏は言う。

「荒々しい線で描かれた屈強なキャラクター、狂気を帯びたキャラクターとともに、イカルゴや念能力が具現化したポットクリンなど、デフォルメの効いた可愛らしいキャラクターが同居しているのも、考えてみれば珍しいことです。絵柄をあえて統一せず、リアルなタッチと記号的な絵を使い分け、物語にどちらの味も出すことができるのが、やはり冨樫さんの強みだと思います」

 常に何が起こるかわからない緊張感がつきまとうのも、この両面性がひとつの要因になっているのだろう。そして、ポップさとダークさを兼ね備えているからこそ、『HUNTER×HUNTER』は幅広い世代がゾクゾクする人気作になっているのかもしれない。

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