商品化で話題沸騰『HUNTER×HUNTER』軍儀、その奥深い魅力とは? メルエムとコムギの対局を振り返る
漫画『HUNTER×HUNTER』に登場する「軍儀」が商品化されることとなった。「軍儀」とは、東ゴルトー発祥の盤上競技。チェスや将棋のように王である「帥(スイ)」を詰む競技で、「駒を3枚まで重ねることができる」、「開始時の駒配置は自陣内なら自由」など独自のルールも多い。立体的な視点が必要かつ選択肢が多いため、作中でキメラ=アントの王・メルエムは将棋や囲碁に比べて手を焼いている様子があった。
はじめ、軍儀はメルエムにとってただの暇つぶしであったが、ストーリーが進むにつれて大きな意味を持つ競技になっていったように思う。軍儀発祥の地・東ゴルトーでは国民のほぼ全員が打つことができ、代表は世界王者。その王者が盲目の少女・コムギだ。メルエムはコムギと対局をしていく中で凄まじい上達を見せるが、どうしても勝つことができない。それは最強の王であるメルエムにとって初めて人間に敵わなかった経験だ。気に入らないことがあればすぐに相手を殺害してきたメルエムだが、「苛立ちながらも其れ(軍儀)を楽しんでいる自分が一方にある」という独白するなど、コムギとの軍儀対決を通して徐々に彼の中で新たな感情が生まれることとなったのだ。おそらくターニングポイントとなったのは、コムギに賭けを提案した時。コムギが負けたら左腕をもらうという賭けを持ちかけるが、コムギは「うぁああああ どーだかな~」と悩んだ上で「左腕ではなくてですね いつもワダすが賭けているものではだめですか? 命です」と逆に提案。これを受けたメルエムは「どうやら覚悟が足りなかったのは余の方だ」と賭けを撤回し、さらに「これで許せ」と自分の左腕を引きちぎってみせた。これまでの暴君っぷりを考えるとあり得ない言動である。さらに治療をせずに軍儀を打つと言うメルエムに歯向かってまで治療させようとしたコムギを殺すことなく受け入れたのだ。2人の間に「対等」に似た関係性が生まれた瞬間だろう。
このあたりからメルエムは軍儀ばかりするようになり、コムギとの対局を重ねて上達していく。と同時に、コムギに対して他の人間とは違う感情をはっきりと抱いていくのだ。このまま戦えば勝てるというところでコムギに休憩させたり、溢れ出る手を描きとめたいから休みが欲しいというコムギの要求を飲んだり、コムギに名前を尋ねたりと、一般市民はもちろん、王直属護衛軍であっても、実の母であっても容赦なく手を下してきたメルエムでは考えられない行動を取っていく。さらに、「自分の存在」は何なのかという哲学的な考えも持ちはじめ、精神的な成長も見せていた。