郷愁を誘うあやかし物語『妖しいご縁がありまして』など話題作続々! ライト文芸の王道「ことのは文庫」の魅力

「ことのは文庫」の魅力に迫る

 祖母の死をきっかけに、父の故郷の石川県能登に移住することになった女子高生の八重子。彼女は7歳から10歳まで能登の祖母の元で暮らしていたが、夏祭りの夜に「決して手を離してはいけないよ」という言いつけを守らなかったため、当時の記憶を失ってしまった。大好きだったはずの祖母のことも思い出せず、罪悪感を抱える八重子の前に、鈴ノ森神社の神・縁さまの門下だと名乗る白狐の二紫名が現れる。縁さまこそ八重子の記憶を奪った張本人であり、記憶を取り戻したくないかと持ちかけられた八重子は、二紫名と協力しながら必要となる道具を探し出していくが――。

 夜の神社のお祭りや、祖母と二人で集めた七色のラムネのビー玉、商店街の駄菓子店など、レトロなアイテムやノスタルジックな景色が郷愁を掻き立てる『妖しいご縁がありまして』。物語に流れる優しくてあたたかい空気感がなんとも心地よく、また祖母との記憶にまつわるエピソードでは切なさがこみあげる。物語に登場するあやかしたちも個性豊かで、「西名」名義で人間世界に溶け込んでいる二紫名を筆頭に、八重子が名付けることになったキュートな狛犬の双子や、八重子を気に入り言い寄る烏天狗、そして意外な姿に驚かされる縁さまなど、バラエティに富んだキャラクターがストーリーを盛り上げていく。

 作中でもひときわ鮮やかな印象を残すのは、八重子が記憶を取り戻し、祖母との邂逅を果たす場面。ネタバレを防ぐために詳述は避けるが、愛おしさと優しさにあふれた描写に心を強く揺さぶられた。恐らく誰しもが、己の行動や選択に後悔した経験があるだろう。二紫名は八重子に、「後悔は尊い。誰しもができることではない。だがおまえは後悔した。これは終わりではなく始まりだ。ここから始めればいいんだ」と伝えている。作中でもとりわけ印象に残ったフレーズで、読みながら心が救われる思いもした。

 第2巻の『妖しいご縁がありまして わがまま神様とあの日の約束』では、八重子が巻き込まれた新たなトラブルが描かれる。商店街の人々が次々と大切記憶を失っていくという状況を、八重子たちは解決できるのか。また二紫名とのロマンスも進展をみせるので、イケメン白狐と人間の少女が繰り広げる恋愛ものとしても期待が高まる。

 どこかほっとするような、懐かしくもあたたかい作品が多数展開されることのは文庫。小説のなかにふと心地よい癒しを求めたくなったとき、このレーベルにふれてみてはいかがだろうか。

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