『バーナード嬢曰く。』『氷菓』『花と頬』……図書館の思い出がよみがえる漫画3選
暑さの厳しい夏の日に、避暑のため街の図書館、学校の図書室へ足を運んだ人も多いのではないだろうか。受験を控えた勉学に励む中高生が机に向かう光景も、図書室の原風景として記憶している人も少なくないはず。
学校の図書室は本の貸借をする場として使用することが本来の目的に沿った利用方法であろう。ただ物語のなかで本の貸借という目的を超えた場所として図書室が描かれる作品は多い。本稿では漫画のなかでどのように図書室が描かれているか、考察したい。
『バーナード嬢曰く。』
第18回手塚治虫文化賞短編賞に選ばれた漫画家・施川ユウキ氏の描く作品であり、2016年にアニメ化された『バーナード嬢曰く。』。本作におけるエピソードの多くは学校の図書室が舞台となる。主要人物のひとり・町田さわ子は図書室の端っこでいつも本を読んでいる人物だ。ただ彼女が本を読むのは誰かが見ているときだけであり、「字ばっかの本つまんねー」と身もフタもない独り言を言うこともある。本作ではそんな彼女と接する男子生徒・遠藤や図書委員の長谷川スミカ、SFマニアの神林しおりたちが図書室で過ごす日々が描かれる。
学校の図書室を舞台に読書家である4人の生徒が交流する本作において、教室の様子やクラスメイトが登場する描写は非常に少ない。他の生徒が描かれたとしても名前といった個人情報は描かれず、あくまでも町田たちの会話のタネとして描かれる。
多くの空間が存在する学校において、図書室に通いつづける生徒の多くは本に興味を持つ人であろう。読書家な4人が集まる場所として図書室を描き、図書室の外にいる生徒を記号的に描く本作は、図書室を4人だけの特別な世界として描いているようにも感じ取れる。
さまざまな生徒が通う学校の教室に対し、全生徒が居心地の良さを感じることは非常に少ないことであるはずだ。本作を読むなかで教室に対し居心地の悪さを感じる生徒の特別な世界、ひとつの居場所として図書室が存在しているのだと感じる。
『氷菓』
米澤穂信氏の推理小説『〈古典部〉シリーズ』を原作に、漫画作品として『月刊少年エース』で連載されている『氷菓』。放送当時に大きな話題を呼んだアニメ版『氷菓』が2022年に10周年を迎え、その記念として展示会の開催や限定グッズも発売された。面倒で浪費としか思えないことには興味が持てない。そんな省エネ主義を貫く男子高校生・折木奉太郎は姉の勧めで入部した古典部にて、同級生である女子生徒・千反田えると出会う。千反田と折木たちは学校生活を送るなかで浮かび上がる謎に興味を持ち、その謎を解き明かしていく。
本作の序盤にて、過去の文集を探すこととなった古典部員たちは学校の図書室を訪れる。また別の機会ではとある謎を解明するため、司書であり折木たちの通う神山高校の在校生であった女性から歴史上の出来事を耳にする。
このエピソードにおいて図書室は長い歴史をもつ神山高校の過去を詮索する、そして過去と現在がつながる場所として描かれているといえるだろう。図書室に書庫があったり、学校にまつわる資料を保管している学校は少なくない。もしかしたら本作のように司書がその学校の卒業生であることもあるだろう。空間に学校の歴史が存在していると思うと、図書室に対する印象は少し違ったものとなるはずだ。