「ぴえん系女子」実社会にも大きな影響を与える漫画の登場人物の相似性

『明日、私は誰かのカノジョ』『九条の大罪』存在感をぱっきするぴえん系女子たち


 ここ最近、涙袋が特徴的なメイクして、お人形のような服に身を包んだ“ぴえん系女子(地雷系女子)”を街中でよく見かける。ただ、ぴえん系女子は漫画にしばしば登場しており、作中内では大きな存在感を発揮している。漫画に登場したぴえん系女子についてまとめたい。

搾取され人を殺してしまう

真鍋昌平『九条の大罪』(小学館)

 『九条の大罪』に出てきたしずくは壮絶な過去を持つ。13歳の時に通っていたダンス教室の先生に性的暴行を受け、心に深い傷を負う。しかし、事件が明るに見なったものの、両親は娘の性被害を“恥ずかしいもの”と捉え、全く寄り添ってもらえなかった。また、現在は母親の彼氏から性的虐待を受けており、精神的にも物理的にも安心できる居場所がなく、夜の街を彷徨い続ける。

 そんな折、マッチングアプリで知り合った修斗にハメられ、AVデビューさせられる。ただ、自己肯定感が異常に低いしずくにとって、AVの世界は初めて自分にスポットライトが当たるキラキラした空間。撮影スタッフ達から前向きな言葉をかけてもらい、心を満たしていく。しかし、金に目がくらんだ母親とその彼氏が弁護士に相談したことによってAV業界では働けなくなり、今度は修斗に風俗で働くようそそのかされる。

 しずくは次第に精神的に追い詰めらる中、修斗は稼げなくなったしずくとの関係を切ろうと計画。しかし、精神の不安定さが頂点に達したしずくは修斗を殺してしまう。あまりに救いのないしずくの歩みではあったが、九条と出会ったことにより、一筋の光を見い出せたことにはホッとした。とは言え、しずくを性欲の捌け口として扱い、金儲けの道具にする周囲の人間に対する嫌悪感も残り、必ずしも後味の良いものではなかった。

ぴえん系女子のカリスマ

をのひなお『明日、私は誰かのカノジョ』(小学館)

 次は『明日、私は誰かのカノジョ』の番外編「Stairway to Heaven」の主人公・ゆあてゃこと高橋優愛。優愛もしずく同様に生い立ちが複雑。優愛は両親が離婚しており、父親は単身赴任。体調が芳しくない祖母を1人で介護しながら生活しているヤングケアラーだ。

 祖母の介護に無関心な父親の存在に加えて、田舎特有の閉塞感に辟易しており、東京への憧れを日々強めている。そんな優愛だったが、祖母が亡くなったことを受けて東京行きを決意。その後はホストにハマり、自担を推すために夜の仕事に就く。

 優愛は第4章「Knockin’on Heaven’s Door」に登場して、同章の主人公の真矢萌以上に大きなインパクトを残しており、自担のハルヒとのやり取りはヒリヒリ感がすさまじい。特に他の客にハルヒの寝顔をSNSに晒された時、ハルヒが優愛に弁明するシーンは圧巻。「ホストは客を選べるだろうが!!こっちはどんなに汚くてキモいオヤジが来たって 拒めないんだよ!」「お前らは客のこと泣かせてばっかで何がホストだよ!!女のこと馬鹿にしやがって この寄生虫が!!」と優愛が叫んだかと思えば、ハルヒも「お前らだって俺達を金で買ってるくせに 少女漫画のヒロイン気取ってんじゃねぇよ!!」と反論。お互いの心からの声がぶちまけ、飛び交うセリフ全てがパンチラインだった。

 ところで、優愛はぴえん系女子を広める役割を果たしたらしく、『「ぴえん」という病 SNS世代の消費と承認』(扶桑社新書)内で、「歌舞伎町にはゆあてゃに憧れて、似た服装で、似たような言動をする(しそうな)女子を見かけることが増えた」と記されていた。
しんどい生い立ちに共感し、心身ともにすり減らしながら自担のために身を粉にして働く姿に共鳴した人が多かったのかもしれない。なにより、自分の気持ちをあればストレートに表現できるその言葉の強さに惹かれた人も、ぴえん系女子に限らず少なくなさそうだ。

 どちらの作品でも、その見た目だけでなく両者が抱える凄惨な過去は物語に衝撃を与えた。今後もぴえん系女子がストーリーの軸を担う存在として登場する機会は増えるかもしれない。

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