『インク色の欲を吐く』『お化けと風鈴』『ブレス』……漫画ライター・ちゃんめい厳選! 8月のおすすめ新刊漫画
今月発売された新刊の中から、おすすめの作品を紹介する本企画。漫画ライター・ちゃんめいが厳選した、いま読んでおくべき5作品とは?
ハルタ『インク色の欲を吐く』梅ノ木びの
19世紀末のイギリスに実在した画家、オーブリー・ビアズリー。英語版「サロメ」の挿画や文芸誌「イエロー・ブック」の美術編集を担当し、“白黒ペン画の鬼才”として世界中にその名を轟かせるも、25歳という若さで生涯を閉じた。『インク色の欲を吐く』とは、そんなオーブリーの数奇で壮絶な人生を綴った作品だ。歴史上の人物や偉人の一生を漫画で描く、いわゆる“歴史漫画”となる本作。だが、オーブリーの人生を淡々と辿るだけではなく、史実に残る彼のスキャンダラスな事件や噂にも焦点を当て、より一層ドラマチックに物語が展開していくところが本作の魅力だ。特に、作中では実在の姉・メーベルが深く関わってくるが、これによってオーブリーの人生譚だけではなく、耽美な愛憎劇としての雰囲気が漂う。
ストーリーはもちろんのこと、読者を作品に引き寄せる“白黒”の表紙にも注目。ちなみに、カバー裏にはため息が出るほど美しい仕掛けが詰め込まれているので、ぜひすみずみまで堪能してほしい。
コルクスタジオ『お化けと風鈴』原作:鈴木おさむ / 漫画:やじまけんじ、髙堀健太、惑丸徳俊
放送作家・鈴木おさむさんと、コルクスタジオのクリエイターたちがタッグを組んだホラー漫画『お化けと風鈴』。主人公は、愛する妻と1人の娘がいるごくごく普通のサラリーマン・ヒロト。不動産会社の営業であるヒロトは、曰く付き物件の内覧へいったことをきっかけに、“風鈴の音”を耳にするようになる。その音色に誘われるように曰く付き物件へと通い詰め、挙句の果てにはそこに棲まう女性の幽霊と逢瀬を重ねるヒロト。そんな彼と家族を待ち受けていたのは、想像を絶する戦慄の悪夢だった。
ーー幽霊と不倫をする。そんな突飛な設定ながら、1巻では薄暗くて湿度のあるストーリーと陰鬱な色彩が恐怖心を煽る。漫画アプリ「LINEマンガ」で絶賛連載中の本作だが、物語が進むにつれて「悪魔のいけにえ」さながらのスプラッタ描写、「死霊館」シリーズを彷彿とさせる除霊バトルなど、超有名ホラー映画の“怖さ”を凝縮したような怒涛の展開から目が離せない。
幽霊だけではなく、スプラッタ、除霊バトル.......様々な角度からの怖さを描いた『お化けと風鈴』。夏の終わりにゾクッとする恐怖を味わってみてはいかがだろうか。
少年マガジンエッジ『ブレス』園山ゆきの
“男子高校生がおとなしい女子をメイクで学園祭の主役にする話”というタイトルでTwitterに投稿された『ブレス』1話は、24.9万を超える「いいね」がつき大きな反響を呼んだ。例に漏れず、私も1話に魅了されたその一人だった。一度は諦めた夢に再び挑戦する。そして、そんな主人公とポジティブな化学反応を起こしていく仲間たちの存在......。本作は、夢追う若者たちの超王道青春ストーリーだが、夢とは努力だけでも、才能だけでも叶わないのだという、残酷な現実にも深く切り込んでくる。
また、夢を追うことの過酷さについて真摯に描かれているからこそ、登場人物たちの“本気度”が切に伝わってくる。メイクアップアーティストやモデルといった、華やかな世界が物語の舞台にも関わらず、バトル漫画さながらの勇ましさ、激しさがページいっぱいに伝わってきて心をゆさぶられた。