青春時代の“お祭り騒ぎ感”が蘇る『正反対な君と僕』 はじけるような青春の眩しさと秀逸な会話劇に注目

 とうに過ぎ去った青春時代。あの頃は誰が誰を好きだとか、誰が誰と付き合い始めたとか、もうそれだけで一大事件だった。例えるならば、そんなあの頃の“お祭り騒ぎ感”をぎゅっと凝縮したのが『正反対な君と僕』(阿賀沢紅茶)だ。

常に熱い視線が注がれている「少年ジャンプ+」の新鋭

 アニメが大人気放送中の『SPY×FAMILY』や「次にくるマンガ大賞2021」で大賞に輝いた『怪獣8号』などを輩出した「少年ジャンプ+」。次々とヒット作を生み出し、漫画好きの間では常に熱い視線が注がれている「少年ジャンプ+」だが、今年の5月に連載開始して以来、じわじわと人気を拡大しているのが『正反対な君と僕』である。

 主人公は、元気いっぱいで誰とでも仲良くできるけれど、実はめちゃくちゃ空気を読んでしまう系の女子高生・鈴木。彼女が惹かれたのは、物静かだけれど自分の意見をはっきり言える谷くんだった。そんな外見や内面すべて正反対な2人が織りなす青春の日々を描く、共感&胸キュンMAXな青春ラブコメディとなっている。

沸々とわき上がる“感情の忙しさ”

 ラブコメディといえば、お互いの気持ちが通じ合ったり、付き合うまでの過程がたっぷりと描かれ、私たち読者は時に焦ったい思いをしながらも、それらを優しく見守りながら楽しむのがセオリーだ。だが、『正反対な君と僕』は1話から早々に鈴木と谷くんが両思いになり、以降は付き合いたての2人の日々が描かれていく。

 時に鈴木は、その恥ずかしさや照れくささから叫び、怒涛のごとく喋り倒す。でも、いざというときは凛とした眼差しで谷くんに想いを伝える。そんな鈴木を目の前にした谷くんは、いつもの涼しげな表情が徐々に崩れていき、顔を赤らめるなど新しい表情を見せていく。付き合い始めならではの初々しい雰囲気はもちろんだが、それ以上にお互いがお互いを意識してしまい、挙句、些細な一挙一動に左右されてしまう......。そんな、付き合い立てだからこそ沸々とわき上がる“感情の忙しさ”を体現したような描写がたまらない。

クラスメイトたちとの会話劇にも注目

 また、鈴木と谷くんが付き合い始めたことを知った、クラスメイトたちのやり取りも見どころの一つだ。初デートに何を着ていくのかと盛り上がる鈴木とその友人たち。そんな女子高生らしいポジティブでフレッシュな会話がなされる一方で、何もかも正反対な2人が付き合い出したことを、少し斜めに見てモヤモヤとしてしまう平くんなど。鈴木と谷くんを中心に、周囲のクラスメイトたちの感情の機微が丁寧に描かれているところも魅力的だ。

 さらに、本作でつい目が止まってしまうのが、そのクラスメイトたちの会話劇。例えば、校内の自販機で偶然出会った時、図書室で試験勉強をしている時......。そんな大人になった今では絶対に味わえないシチュエーションで起きる、些細な、いや、きっと数日後には忘れてしまうであろう何気ない会話の一つ一つがとにかく秀逸。

 今思えば、本当にしょーもない。でも、あの頃だから話せたことや不意に出た言葉。はじけるような青春の眩しさを思い出すセリフの数々や、当時の気持ちを蘇らせるようなポップな色遣いとタッチ触れていると、胸が締め付けられるような懐かしさで一杯になる。

 2022年7月4日に単行本1巻が発売されたばかりの『正反対な君と僕』。ぜひ、青春時代のあの頃に思いを馳せながら読んでみてほしい。

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