部屋に棲みついているのは〇〇霊!? 『左様なら今晩は』不器用な幽霊と僕の痴的で真っ直ぐな恋

 結婚を目前にして、彼女からフラれてしまった陽平。それと同時に同棲も解消となり、一人寂しく失恋を引きずる陽平だったが、彼女とお別れした日を境に突然マグカップが割れたり、不気味な声が聞こえてくるなど、部屋の至るところで怪奇現象が発生するように。

 ーーあれは、彼女と別れたばかりの頃の話です。と、夏の風物詩である某・心霊番組のモノローグがついてもおかしくないレベルの怪奇現象に見舞われるところから始まる『左様なら今晩は』(山本中学)だが、その幽霊は私たちが想像しているものとは少し違うみたいで......?

部屋に棲みついているのは、世にも珍しい〇〇霊

 この部屋には幽霊がいると確信した陽平だったが、恐怖心よりも失恋の傷心が勝り、こともあろうか幽霊に八つ当たりをして暴言を吐いてしまう。そんな陽平の叫びに応えるように姿を現したのは、黒く長い髪を振り乱した女性の幽霊だった。

 そんな彼女の正体は、かつて陽平の部屋に住んでいたOLで、不慮の病によって亡くなってしまった、この世に未練を残したタイプの幽霊。しかもこの未練というのが、とてつもなく厄介。彼女は処女のまま亡くなったため、恋愛、そして男女の営みに対して並々ならぬ興味と執念を持つ“痴女霊”だった。

痴的ユーモア溢れる2人の掛け合い

 生きているからできる愛する人との営み、そして実感できる温かい皮膚感覚。それらを体感できずに亡くなった痴女霊(通称・アイスケ)は、彼の恋愛事情や生理現象に興味津々。例えば、陽平がワンナイト目的で女性を部屋に連れ込んだ日には、目をかっ開いてその様子を見届けようとするほど、少々際どい行動が目立つ。だが、総じてその様子は無邪気な少女そのもので、とても幽霊とは思えないほど生気に満ちたキャラクターだ。

 そんなアイスケと図らずも同棲生活を送ることになった陽平は、いきなり性的な行動や話題を振る彼女に戸惑うが、なんだかんだアイスケの要望にしっかりと付き合ってしまうし、それによって繰り広げられる、“痴的ユーモア”溢れる2人の掛け合いがなんとも面白くてかわいい。

人間と幽霊、共通点はどこまでも不器用なところ

 本作の魅力は、ギャグとして楽しめる2人の掛け合いはもちろんだが、やっぱりどこまでも不器用な2人のキャラクター性だと思う。

 アイスケと出会うまでは、彼女から別れ際に「一緒にいると気が滅入る」と言われるほど、言いたいことも正直に伝えられない消極的な性格だった陽平。対して生前のアイスケは、何かと人の仕事を頼まれがちで断ったり、本音をいうことができないOLだった。

 そんな生きることに不器用な2人だったが、それぞれ人間と幽霊の立場で出会い、一緒に時を過ごすうちに、互いを信頼して、相手を受け入れていく。時には顔を真っ赤にしたり、言葉に詰まったり、叫んだり、触れ合ったり......2人の距離が縮まっていく過程は、危なっかしくてとても未熟。けれど、互いの感情や欲望をどこまでも真っ直ぐに伝えようとする人間らしいやり取りに、胸が熱くなる。

 次第に恋愛関係へと発展していく陽平とアイスケだが、幽霊と人間の恋は、人間にとっては寿命が縮むなど高いリスクが伴うほど危険。それでもなお強烈に惹かれあう、陽平とアイスケふたりの恋路の果てをぜひ見届けてほしい。

2022年11月には実写映画も

映画『左様なら今晩は』公式アカウント

 さらに2022年11月には、アイスケこと愛助役を久保史緒里(乃木坂46)、陽平役に萩原利久を迎え、実写映画『左様なら今晩は』の公開が決定。映画公開前にぜひ原作を読んでみてはいかがだろうか。

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