『屍人荘の殺人』から『魔眼の匣の殺人』へーー今村昌弘が到達した、クローズド・サークルの新境地

『屍人荘の殺人』から『魔眼の匣の殺人』へ

『屍人荘の殺人』から『魔眼の匣の殺人』へ

 あの今村昌弘『魔眼の匣の殺人』が8月12日、創元推理文庫に入る。

 あの、と言われてもぴんと来ない人もいるだろう。『魔眼の匣の殺人』はベストセラーとなった『屍人荘の殺人』の続篇である。

 最初にざっとあらすじを紹介しよう。神紅大学一回生の葉村譲と二回生の剣崎比留子は、W県の人里離れた村にある旧真雁地区にやってくる。川で隔てられたその場所には魔眼の匣と呼ばれる建築物が存在し、サキミという老人が住んでいた。サキミは地元では未来を見通す者として畏怖される存在だが、その年の「11月最後の2日間に、男女2人ずつ、4人死ぬ」という予言をしていた。譲と比留子を含む9人が到着した後、真雁と外界を結ぶ唯一の橋が落ちてしまう。

 偶然の事故ではなく、人為である。サキミの超能力を信じる住民たちが、予言に巻き込まれることを恐れて火を放ったのだ。取り残されたのは11人。その中にはサキミとは違い、絵として描くことで未来を予言する十色真理絵という能力者も含まれていた。その中で本当に殺人事件が起きてしまう。予言通り4人が死ぬことになるのか。

 閉鎖空間内で起きた事件の謎を解くミステリーを〈クローズド・サークル〉ものと呼ぶ。本作もその系譜に入る作品である。今村は『屍人荘の殺人』と本作、続く『兇人邸の殺人』で三度この型の謎解き小説を書いている。『屍人荘の殺人』から振り返ることで、作品の魅力は改めて明らかになるはずである。

 まずは『屍人荘の殺人』がどれほどの栄誉を手にしたかを説明しておこう。

 2017年に第27回鮎川哲也賞を受賞、今村のデビュー作となる。本が刊行されるとたちまち話題となり、年度末恒例のベストランキングでは『週刊文春ミステリーベスト10』『このミステリーがすごい! 2018年版』『2018本格ミステリ・ベスト10』で第一位に選ばれた。明けて2018年には第15回本屋大賞の候補作に選ばれ、結果的には3位になった。次いで第18回本格ミステリ大賞小説部門を受賞。これは作家・評論家が属する本格ミステリ作家クラブの会員が投票で選ぶもので、プロの目利きから認められたと言える。さらには木村ひさし監督、神木隆之介・浜辺美波主演で映画化され、2019年12月より全国東宝系で公開された。同年にはミヨカワ将の漫画としてコミカライズされており、2021年までに集英社ジャンプコミックスから全4巻が発売された。新人のデビュー作として、できることはやり尽くした感がある。ちなみに第2作にあたる『魔眼の匣の殺人』は前作には及ばないものの「このミス」3位、「文春」3位、「本格ベスト10」2位とやはり年間ランキングの上位に輝いた。

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