第167回 芥川賞&直木賞受賞会見レポ 高瀬隼子と窪美澄、それぞれの評価のポイントは?

第167回 芥川賞&直木賞決定! 最速レポート

 日本文学振興会主催による第167回芥川賞・直木賞の選考会が7月20日、東京・帝国ホテル本館2階「孔雀の間」で開かれ、芥川賞は高瀬隼子(たかせ・じゅんこ)(34)の『おいしいごはんが食べられますように』(群像1月号)に決まった。直木賞は窪美澄(くぼ・みすみ)(57)の『夜に星を放つ』(文芸春秋)が選ばれた。

 今回の選考を務めたのは(50音順・敬称略)、芥川賞は小川洋子、奥泉光、川上弘美、島田雅彦、堀江敏幸、松浦寿輝、山田詠美、吉田修一。直木賞は、浅田次郎、伊集院 静、角田光代、北方謙三、桐野夏生、髙村薫、林真理子、三浦しをん、宮部みゆき。

 芥川賞の受賞作『おいしいごはんが食べられますように』の著者・高瀬隼子は、1988年、愛媛県生まれ。立命館大学文学部卒業。大学の仲間を中心とした文芸サークル「京都ジャンクション」を結成し、文学フリマなどで活動。2019年『犬のかたちをしているもの』で第43回すばる文学賞を受賞し、デビュー。’21年『水たまりで息をする』は第165回芥川賞候補になっている。

第167回芥川賞を受賞した高瀬隼子

 受賞作は、職場でのままならない人間関係を、食を通して綴った作品。職場でそれなりに上手くやっている二谷、皆が守ってあげたくなる存在で料理上手な芦川、仕事ができてがんばり屋の押尾。彼らを中心に描かれるリアルな「仕事」、「食べ物」、「恋愛」は、読者の心をざわつかせる。

 今回、芥川賞候補は5作。著者は皆女性で、1935年に賞が創設されて以来、初となる。選考委員を代表して川上弘美は、候補作について「5作の評価が拮抗しており、粒の揃った好作だった」と評した。その上で2度の選考過程を経て、高瀬の作品が選ばれたのは「職場、あるいは小さい集団での人間関係を立体的に描いている作品。どこかで見たことがあるような物語をいかに書くかが小説ですが、高瀬さんの作品は、ありふれた人物像や人間の中にある多面性が非常に上手く描かれている。それを実際に小説にすることはとても難しいことなので、その点を選考委員は高く評価しました」と述べた。

 受賞会見で、“多面性が非常に上手く描かれていた”点が高く評価されたことについて、高瀬は「私自身、職場に限らずいろいろな場で他者とかかわっていく中で、他人の考えがわからないことが多い。自分はこうだと思っていても、実際は違うことがたくさんあります。そういうところが描けていたのなら嬉しい。(受賞作の題材にもなっている企業をとりまく世の中の状況は)年々よい方向に変わっている感覚。それでも、辛いこと、恐ろしいこと、むかつくことはまだまだあります。それを小説の中ですくい取っていけたら。読んでくださった方が救われるまではいかないにしても、何かの役に立てれば」と語った。

芥川賞の選考について総評をする川上弘美

 デビュー以前から同人誌で小説を書き続けていた高瀬。芥川賞の受賞は今後の作家人生に向けたエールと受け取ったようだ。これから書き続けていくためにも「いまは食欲がないですが、明日以降に何か食べられたらいいなと思います」とはにかんだ。

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