話題の青春ホラー漫画『光が死んだ夏』作者が明かす、“恐怖”を表現するためのこだわり 「記号ではなく、行動で感情を描く」
TikTokやTwitterなど各SNSを通じ、Z世代の間で爆発的に話題を集めている漫画『光が死んだ夏』。その勢いは止まることを知らず、単行本1巻発売後からわずか3か月で累計発行部数20万部を突破、現在では「次にくる漫画大賞2022」Webマンガ部門にノミネート中だ。(7月11日まで投票受付中)
いつも隣にいる友人が、ある日突然全く別の”ナニカ”にすり替わっていたとしたら。そんな世にも奇妙な入れ替わりから始まる本作。閉塞感漂う田舎町、まことしやかに噂される不気味な伝承、不可解な事件など、思わずゾッとするようなホラー要素を散りばめながらも、“ナニカ”になってしまった光と、そんな彼の側から離れないよしき、2人の少年の間で揺れる複雑な感情を鮮烈に描く。
ホラーか、ブロマンスか……。一言で形容しがたい物語の深さと圧倒的な画力の高さで読者を魅了する本作は、どのようにして生まれたのか? 作者・モクモクれん先生にインタビューを行った。(ちゃんめい)
構想のきっかけは高校時代の「あったら良いな」
ーーまず、『光が死んだ夏』構想のきっかけを教えてください。
モクモクれん:最初に思いついたのは高校生の頃です。受験勉強をしている時に「こういう漫画があったら良いな、面白いだろうな」って、ふと思い浮かんだんです。当時漫画家志望ではなかったのですが、物語や細かい設定を考えるのが昔から好きだったんですよ。
ーーそこからどのようにして連載へと辿り着いたのでしょうか。
モクモクれん:自分が読みたいお話を頭の中で構築していく……という感じだったので、最初は誰にも見せる気がなかったんです。だから、思いついてからの数年間は漫画はもちろん、文章にすらしていませんでした。それが、昨年の1月頃にたまたま時間に余裕ができたので、頭の中にあったものを絵にしてみたんです。その絵をTwitterに投稿したらバズって、それがきっかけで編集部から声をかけていただきました。
“バズ”だけじゃない、TikTokからの新規読者
ーー単行本1巻発売前から、TikTokでキャラクターのコスプレ動画などが投稿され話題になっていました。“TikTokバズ”を経験した時の心境はいかがでしたか?
モクモクれん:急にTwitterの反応が良くなって「なんだろう?」と思っていたら、どうやらTikTokでバズっているらしいと。それで、初めてTikTokのアプリを入れて色々動画を見てみいたら、最初は世代のギャップというか「今時の子たちはこんな感じなんだ.....」って少しびっくりしたんですけど(笑)。動画に集まるコメント欄とか見ていたら、高校生だった頃の自分と似たようなものを感じて、なんだか「いつの時代も変わらないんだな」と、ノスタルジックな気持ちになりました。
ーー印象的だったコメントを教えてください。
モクモクれん:色々なコメントがありましたが「この作者は絶対に霊感がある!」や「この作者の身のまわりが心配だ」とか、私の身を案じてくれるもの。あと、これはどこで見たか覚えていないのですが、読者さんがご自身のお父様に作品を読ませたらしく「お父さんも昔、こういうお化けを見たんだ!って言っていた」みたいなコメントはちょっと面白かったですね(笑)。
ーーコスプレ動画以外にも、名だたる漫画紹介TikTokerさんたちも本作をすごくプッシュしていましたよね。
モクモクれん:『光が死んだ夏』関連の色々な動画がバズっていたと思うのですが、漫画紹介TikTokerさんたちが作品の魅力とか、どこで読めるとか、かなり詳しく解説してくれていて、すごくありがたかったですね。そのお陰で、ただバズるだけじゃなくてしっかりと作品の方へ繋がって、読者さんが増えていったのだと思います。
ーーTikTokバズをきっかけにTwitterのフォロワー層に変化はありましたか?
モクモクれん:TikTokバズをきっかけに、Twitterも若い読者さんからのコメントがすごく増えたんです。それまでは大人の読者さんが多い印象だったので、こうして若い方に読んでもらえるのもすごく嬉しいですね。これから先も長く読んでくれそうですし、『光が死んだ夏』が青春の一部になってくれたら……。私自身も中高生くらいの時に好きだった漫画は今でも大好きですし、すごく影響を受けています。なのでそういう存在になれたら嬉しいなって。
『ほん怖』『新耳袋』『来る』から受けた影響
ーーちなみに学生時代はどんな作品がお好きだったんですか?
モクモクれん:『東京喰種』が大好きで、めちゃくちゃ読んでましたね。他にも色々読んでいたのですが、「週刊少年ジャンプ」「週刊ヤングジャンプ」みたいなバトル系の漫画にグッとくることが多かったです。
ーー『光が死んだ夏』はバトルではなく、ヒューマンドラマ、ホラーと言った要素が強いですよね。
モクモクれん:漫画だとバトル系が好きでよく読んでいたのですが、全体的な傾向としてはホラーが好きなんですよ。物心ついたころから本当にホラーが大好きで、ホラー映画やホラー小説ばっかり見たり読んだりしていました。その影響か、ホラーを描きたいって気持ちは昔からありましたね。
ーー特にお気に入りのホラー作品を教えてください。
モクモクれん:『ほん怖』(ほんとにあった怖い話)はかなり見ていました。あと『新耳袋』というテレビドラマも大好きで、この辺りは結構影響を受けているなと。あと、映画『来る』と、その原作『ぼぎわんが、来る』や『ししりばの家』とか澤村伊智さんのホラー小説が大好きです。もう“ぼぎわん”とか“ししりばの家”とか単語からして「え、なに?」って感じがして怖いじゃないですか(笑)。怪異というか、いわゆるお化けの表現に“説明されない気持ちの悪さ”みたいなものがある作品が好きなんです。
説明されない気持ちの悪さ、擬音......表現へのこだわり
ーー「く」のシーン(※画像参照)から、モクモクれん先生が仰っていた“説明されない気持ちの悪さ”を感じました。すごく怖かったです(笑)
モクモクれん:これは、先ほど挙げた『ほん怖』や『新耳袋』はもちろんですが、2chのオカルト板「死ぬ程洒落にならない怖い話を集めてみない?」もすごい好きなので、そこからの影響も受けています。
ーー絵の面で、ホラー表現へのこだわりはありますか?
モクモクれん:周囲からよく褒められるのは擬音の描き方ですね。「シャワシャワ」とか、あまり見かけないような表現をできるだけ使いたいと思っていて。でも、それが表現としてちゃんと効果的に働いているか、という点はかなり意識しています。
ーー下絵の段階から既におびただしい量の「シャワシャワ」が入っていたんですね。
モクモクれん:この擬音は怖さを掻き立てるために、読者にしっかりと読ませたかったんですよ。こういう擬音は手書きで描く方法もありますが、写植にすると嫌でも目に入ってくるのでこの方が良いかなって。あと、私の手書き文字だと怖さが半減しそうだったのも写植を採用した理由の一つです。
ーー擬音を読者にしっかりと読ませたいなど、視覚表現への並々ならぬこだわりを感じます。
モクモクれん:そこはかなり考えていますね。擬音のように読ませたいものがある時は、それがどれくらいの配分で読者の目に入ってくるのか、という割合は意識しています。
ーーキャラクターの描写はいかがでしょうか?
モクモクれん:青筋や汗々…..みたいな表現はあまり使わないですね。例えば、ショック受けたり、焦ったりしてその場を立ち去るシーンがあるとしたら、立ち去るとき椅子にぶつかってしまって、その椅子がガタンって倒れるとか。その時の感情を、青筋や汗々みたいなマークではなく行動で表現したいんです。そうすると、やっぱり先ほどの擬音じゃないですけど、音が結構大事になってくるんですよね。