『金田一少年の事件簿』殺人事件の重さを伝える、悲しきエピソード

『金田一少年の事件簿』悲しき被害者たち

 ドラマが好評放送中の『金田一少年の事件簿』。作中ではさまざまな殺人事件が起こるが、犯人にもそれぞれに動機があり、過去のやりきれないエピソードに同情してしまうことも少なくない。ともすれば、凶行に至ったことも感情的には否定しづらい、という犯人もいるなかで、「それでも殺人は悪だ」という“重さ”をリマインドさせる悲しき被害者が存在することは、読者にとっては心が痛むが、それはある意味作者の良心とも言えるのかもしれない。

 本稿では、『金田一少年の事件簿』の第一期と呼ばれるFileシリーズ、Caseシリーズから、あえて理不尽に命を奪われた被害者を紹介したい。

“巻き添え”で殺害された少女・斑目るり

 1人目は「黒死蝶殺人事件」の被害者・斑目るり。るりは12歳という若さで殺害され、“金田一少年シリーズの最年少被害者”という悲しい記録を持つ。

 るりの父親・紫紋は母親・緑にマニアックなSMプレイを強要しており、その様子を度々目撃したるりは紫紋を激しく憎んでいた。健全とは言い難い環境で育ったからなのか、るりは猜疑心が強くとっつきづらい性格。しかし、金田一一(はじめ)と接するうちに徐々に心を開き、次の日に一緒に遊ぶことを約束する。

 漫画的に言えば“死亡フラグが立った”やり取りではあるが、翌日に口から血を流したるりの死体が発見されたときには背筋が凍った。

 12歳のるりが他人から殺意を持たれるほどの恨みを買うことなどなく、犯人・小野寺将之の殺人の動機は紫紋に対する恨みであり、完全なる巻き添えである。しかも、その恨みも小野寺の勘違いだったのだから余計に胸糞悪い。読者の心にも傷を残すエピソードである。

全てが散々だった巽征丸

 どの被害者が一番不幸だったのかーー当然ながら、それを順位付けするのは難しい。しかし、個人的には「飛騨からくり屋敷殺人事件」の巽征丸はもっとも可哀想だと思う。

 征丸は体調が優れない母・紫乃を気遣う優しい息子ではあるが、その紫乃に胸を刺されるだけでなく、首まで切り落とされてしまった。

 その動機は複雑だ。ザックリ説明すると、紫乃と血のつながった本当の息子である龍之介に巽家の莫大な財産を継がせるため、“血のつながっていない実の息子”である征丸を排除したのだ。

 征丸にとっては、大好きだった母親と血がつながっていなかったことが、そもそもショックだろう。加えて、いくら血がつながっているとはいえ、長年一緒だった自分よりも龍之介を贔屓していたことも辛い。さらに、これらの事実を一切知らぬまま、紫乃に殺されてしまったことを考えると、やりきれない気持ちになってしまう。

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