『花野井くんと恋の病』高校生の二人が辛い過去と向き合い、丁寧に関係を育む姿に胸が詰まる

『花野井くんと恋の病』レビュー

 友情や恋愛に関して、「あのとき何もできなかった」「こうしていればよかった」という後悔は、誰しもあるのではないだろうか。しかし、それが自分自身の弱さに起因している場合、それを克服して、同じ場面で逃げずに正面から向き合い、立ち向かおうとするのはなかなか簡単なことではない。また、同じように目を背けてしまったり、逃げたくなったりしてしまうかもしれない……。

「恋なんて一生できないと思っていた私に 生まれて初めて 彼氏ができました」

 森野萌による恋愛漫画『花野井くんと恋の病』の主人公は、友達や家族に恵まれながら、恋愛とは程遠かった高校1年生のほたる。雪が降る冬のある日、傘もささずに公園のベンチに座る隣のクラスの花野井くんに、何気なく傘をさしだした。このことがきっかけで、大きく人生が変わる。次の日には教室で突然、花野井くんから告白されてしまったほたる。過去のあるできごとから、誰かを特別好きになる気持ちがわからない、自分みたいな人種はきっと恋なんてしないほうがいいと思っていたが、「恋をしちゃいけない人なんていないよ」という花野井くんの言葉に勇気をもらい、お試しで付き合うことになる。

 “お試し”とはいえ、花野井くんの想いは思ったよりも強い。「僕は君の特別になりたいんだ」と、ほたるの好みのために長かった髪をバッサリと切ったり、ピアスを外したり。冬の寒いなかで自分のことを顧みず、ほたるの落とし物を探すこともあった。そして、ほたる以外にはまったく興味を示すことはない。他のクラスメートに対する態度の違いが一目瞭然だ。

 過去のあるできごとから、強い想いは時に人を変えてしまうと知っているほたるにとっては、本気の恋に踏み出すのが怖い。ただ、花野井くんと美味しいものを半分こして一緒に食べると嬉しい、花野井くんの行動には驚いたけど、自分が大事にしているものを私以上に大事にしてくれていただけなのかもしれない……。こうした、初めての感情に戸惑いつつも、一つひとつ心に留めながら、もし恋がこういうものなら素敵だなと思う。少しずつ花野井くんのことを知りたい、恋を知りたいと前向きに思いはじめるほたる。

「ーーいつか私にも……恋はできるかな……?」

 過去のできごとで苦しんでいるのは、ほたるだけではなく、実は花野井くんも同じだった。物語が進むなかで、トラウマから逃げずに正面から向き合い、2人で心をゆっくりと解きほぐしていく姿に胸が詰まる。この2人の間に流れる穏やかな時間が、筆者は好きだ。恋人の重すぎる愛情をテーマにした作品は多くあるが、こうして丁寧に互いの考え方や価値観のすり合わせをしていく、2人で恋を知っていく、ともに成長していく物語は多くはないだろう。

 ここまで冷静なふりをして書いてしまったが、正直なところこのままでは筆者の感情はおさまらない。この書評の下書きメモを見返してみると、「ピュアアアアア」「あああああ、もう無理」「好きが溢れるううううう」「エンダァアアアアアア」という叫びばかりで、自分の語彙力の無さに引いた(笑)。2人の関係性の変化はもちろん、細かな描写も筆者の心を揺さぶるものばかりだ。

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