ふたりの老紳士と刺青入りの青年ーーフィンランドを舞台にした物語『ホテル・メッツァペウラへようこそ』があたたかい

フィンランド、ラップランド地方の冬はとても過酷だ。12月には1日の日照時間は2時間ほど。長く暗い夜が続く。雪が降り続くと、わずかな光さえなくなる。フィンランドは美しい景色と大自然があり、世界一幸福度の高い国としても知られている。だが、かつては自殺大国ともいわれていたこの国には、他の国と同様に、やはり光と影がある。

「生き残っていくためには学び続けなければいけない
 そしてお互いに助け合わなければ冬は越せない
 それがこの国の人間の生き方です」
※『ホテル・メッツァペウラへようこそ』コミック第1巻p.205より引用

 漫画『ホテル・メッツァペウラへようこそ』は、ラップランド地方の町外れにある1軒の小さなホテルを営む老紳士と、そこに突然訪れた青年との物語である。

心温かく、親身な2人の老紳士と素直で真面目な青年

 この作品の魅力は、2人の老紳士と青年の丁寧な人物描写だろう。雪が降りしきるなか、わずかな荷物と情報だけを頼りにたどり着いたホテルの先。小一時間立ちすくみ、寒さで倒れ込んでしまった青年。その光景に気づいた2人の老紳士は、警戒しつつもすぐさまホテルで手当をする。毛布を身体に巻き、温かいお湯に足を浸け、ブランデーの入った飲み物を持ってくる支配人のアードルフ。そして、「急に言われても何もないぞ!!」とは言いつつ、煮込みスープとパンの付け合わせのような温かい食事を持ってくる料理人のクスタ。この老紳士が2人でホテル·メッツァペウラを切り盛りしている。

 青年の名前はジュン、年齢は17歳。施設で育ち、親はいない。泊るところはなく、「心配する人は誰もいない」というジュンに、部屋とサウナを用意してやるクスタ。そこで、ジュンの身体には大きく入った刺青があることに気づく。クスタはやや口が悪く乱暴さもありながら、困っている若い人を放っておけないらしい。サウナではボソッと、「さっきは手荒にして悪かったな 明日はもう少しまともな食事を作ってやる」と言い、気遣ってくれる。作品を読んでいる筆者まで、自分が受け入れられ、身体も心までも温まっていくように感じるシーンだ。

 翌朝、クリスマスツリーの飾りつけをしていたアードルフはジュンに対して声をかけ、一緒に飾り付けをし、身なりを整えてやる。そして、こう言う。

「私どものホテルで一緒に 働いてみませんか」

 こうして住み込みで働くこととなったジュン。ニコニコと優しげだが、実はビシバシしごかれるアードルフのもとで修業がはじまる。

 ジュンは素直で真面目だ。仕事も失敗を繰り返しながらも、自分に何かできることはないかと考え、この国の人間の生き方、ホテルマンの考え方を身に着けていく。しかし、ジュンの癖や言動などから、ふと過去のトラウマに触れる瞬間がある。まだまだわからないことは多い。ただ、アードルフとクスタはむやみやたらに踏み込んで、詮索はしなかった。ジュンには余程の事情があるのかもしれないが、「彼が自分から話す気になるまで 無理に踏み込むことはしたくありません」と語るアードルフ。ジュンを見守るこの2人の老紳士も、なぜここでホテルを切り盛りするようになったのか、これから少しずつわかっていくだろう。

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