『SLAM DUNK』赤木剛憲 メンターとしての役割と、その成長を考察

※本稿には『SLAM DUNK』(井上雄彦/集英社)の内容について触れている箇所がございます。同作を未読の方はご注意ください。(筆者)

 井上雄彦の『SLAM DUNK』(スラムダンク)は、1990年から1996年まで「週刊少年ジャンプ」にて連載された、バスケットボール漫画の金字塔である。今秋には原作者自ら脚本・監督を務めるアニメ映画が公開予定であり、ファンの間ではますます期待が高まっているところだ。

 そこで今回は、同作のキーパーソンのひとり――より具体的にいえば、主人公・桜木花道を導くメンターのひとり[注]である、湘北高校バスケ部キャプテン、赤木剛憲について書いてみたいと思う。

[注]桜木花道を導く存在はもうひとりいるが、それはもちろん、監督の安西光義である。

赤木がずっと求めていたものとは?

 赤木剛憲は神奈川県立湘北高校の3年生。前述のようにバスケ部のキャプテンであり、ポジションはセンター。子供の頃から全国制覇を夢見ており、197㎝という長身の持ち主でもあるが、残念ながら高校入学時の彼には、海南や翔陽のような県内の強豪校へ入れるほどの実力はなかったようだ(そのあたりのいきさつは詳しくは描かれていないが、当時の赤木はドリブルやフリースローが苦手だったようでもあり、おそらくは、同学年のスター選手・三井寿ほどには評価されていなかったのだろう。なお、入学時の身長は193㎝)。

 だが、彼はのちにインターハイで戦うことになる強豪・山王工業の選手に、「今まで無名なのが不思議なくらいだ」といわれるほどの存在になる。それはひとえに、(安西監督と木暮公延の他は、誰も認めてくれない中での)孤独な“努力”の積み重ねの成果だったが、赤木が心から求めていたのは、自らの技術や体力の向上(だけ)ではなかった。

 では、彼が求めていたのは何か。それは、あらためていうまでもなく、“頼りになる仲間たち”である。当たり前だが、バスケットボールはひとりではできない。いくら自分だけが技術を高めたところで、仲間がついてきてくれなければ試合に勝つことは不可能だ。しかし、実際に彼の周りにいる部員たちは、「強要するなよ 全国制覇なんて/お前とバスケやるの 息苦しいよ」などというような連中ばかりで……。

 ところがある時、妹の晴子がつれてきた問題児が、彼の運命を大きく変えることになる。そう――赤い髪の不良少年、桜木花道(1年)である。

夢が叶った瞬間、襲いかかってくる現実

 どこからともなく現れて、秩序や既成概念を破壊したのちに、新しい世界を生み出す存在を「トリックスター」と呼ぶ。『SLAM DUNK』でいえば、それはもちろん、主人公の桜木花道ということになるだろう。

 実際、桜木自身、「おめーら バスケかぶれの常識は オレには通用しねえ!!」などといっているように、彼の常識は生粋のバスケマンたちには理解できない。それゆえに、停滞していた状況を打ち崩し、周りの人々を“先”へと動かす力を持っているのだ。

 また、そうした破天荒な顔を見せる一方で、桜木には赤木と同じ“努力の人”としての一面もある。だからこそ――おそらくは自分と似た資質を感じとってのことだろうか――赤木はバスケの基礎だけでなく、精神面でも桜木を大きく導いていく。

 さらに、そのトリックスター(桜木)に吸い寄せられるように、因縁のあるふたり――宮城リョータ(2年)と三井寿が、バスケ部全員を巻き込んだ騒動を起こした末に復帰し、桜木とは別の可能性を秘めたエース、流川楓(1年)も含めて、湘北高校に“最強のメンバー”が揃うのだった。いずれも一匹狼めいた問題児ばかりであり、そんな彼らをまとめあげられるのは、やはり赤木の他にはいないだろう。

 いずれにせよ、ようやくこの段階で、赤木が心から求めていたものが手に入ったということになり(後に赤木の親友である木暮はこういう――「…ずっとこんな 仲間が欲しかったんだもんな……」)、実際、湘北高校は全国クラスのチームになっていくわけだが、かといって順風満帆とはいかず、思わぬ“壁”が、ある試合で彼の前に立ちはだかることになる。

 それはインターハイの2回戦。湘北高校は先にも触れたように山王工業と対戦することになるのだが、その試合中、赤木は相手チームのセンター(河田雅史)の前になす術もなく、自らの現時点での“実力”を思い知らされてしまう。たぶん、彼の中では、これまで「全国」に行けなかったある種の“言い訳”として、“チームメイトに恵まれなかった”ということがあったかもしれない。だが、いまは違う。頼れる仲間を得るという理想が現実になったいま、まさか、チームの大黒柱であるはずの自分が、味方の足を引っ張ることになろうとは……。

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