「週刊少年ジャンプ」ネクストブレイク必至? 『SAKAMOTO DAYS』は今、一番カッコいいアクション漫画だ
『SAKAMOTO DAYS』(集英社)は今、一番カッコいいアクションを描いている漫画だ。鈴木祐斗が「週刊少年ジャンプ」で連載している本作は元・殺し屋の坂本太郎が家族を守るために次々と襲いかかってくる殺し屋たちと戦うアクションバトル漫画。
主人公の坂本は、寡黙な太った中年男性。少年漫画の主人公としては話を転がすのが難しそうなキャラクターだったため「漫画として成り立つのか?」と最初は心配だったが、すぐに連載は軌道に乗り、コミックスは第5巻まで刊行されている。人気の指標となる少年ジャンプの作品掲載順を見ても、最近はトップ5の常連となっており、次期エースといって過言ではないだろう。
少年漫画のセオリーからはだいぶ外れた作品に思える『SAKAMOTO DAYS』だが、競争の激しい「週刊少年ジャンプ」で、なぜここまで人気なのか?
物語の構造はとてもシンプルだ。坂本の首には10億の懸賞金がかけられており、彼の元には次々と殺し屋がやってくる。劇中では坂本と殺し屋の激しいバトルが毎回描かれるのだが、毎回、見応えのあるアクションシーンが展開されている。
どれだけカッコいい戦闘シーンを描くかということに作者は尽力しており、ストーリーやキャラクターがわからない状態でパラパラとページをめくっても、「なんだか凄いことをやっているな」ということは、画を見ればわかる。
しかも、そのアクションシーンのバランスが絶妙なのだ。荒唐無稽になりすぎず、かといってリアル一辺倒でもないという、漫画としてギリギリのラインを攻めていることが、人気の秘密ではないかと思う。
※以下、ネタバレあり。
最新巻となる5巻でも、見応えのあるアクションが多数描かれている。返り討ちにされた殺し屋たちが次々と坂本の仲間となり、彼が経営する坂本商店のアルバイトとして働くようになっていく中、謎の殺し屋・×(スラー)が率いる組織は、四人の死刑囚に、坂本たちの暗殺を命令する。×の情報を手に入れるため、死刑囚を向かえ撃つ坂本たち。一方、殺連(日本殺し屋連盟)の特務部隊・ORDERの五人も動き出していた。物語は三つ巴の戦いへと発展していく。
まず本作は、バトル漫画のセオリーどおりに、坂本たちを狙う死刑囚の殺し屋たちが「どれだけヤバイ奴なのか」を、読者に提示する。ドレッドヘアーのミニマリストは、ハンバーガーを片手で握りつぶして飴玉サイズにしたあと呑み込む。次にテーブルを「ぐしゃっ」と押しつぶしてキャベツのように丸めるという異常な握力を披露する。
一方、鋭い糸を操るアパートは、早速、殺し屋を始末する。糸で敵の体をバラバラに切り裂く際に「あれ」という台詞まで細切れになるのが、うまい見せ方である。その後、バラバラにした殺し屋の体を丁寧に並べたあと、部屋の本棚に並んでいる漫画が七巻だけないのが気になって本屋に買いに行って並べる姿が描かれる。何とも言い難い奇妙な場面だが、殺人と日常が地続きのものとして平然と描くブラックユーモアも『SAKAMOTO DAYS』の隠れた魅力である。
対して、ORDERの殺し屋で見逃せないのが、篁(たかむら)という日本刀を持った老人だ。弱々しいお爺さんにしか見えない篁だが、目の前を虫が通り過ぎると体が反応して刀を抜き、乗っていた車の屋根から上を一刀両断してしまう。篁の抜刀場面は、他の殺し屋の戦闘シーンと較べると、何倍もぶっ飛んだ描写で、荒唐無稽なファンタジーの領域に接近している。
篁は、鈴木祐斗のデビュー作となった読み切り漫画「骸区」に登場したキャラクターで、一見ボケているようにみえるが、チンピラが攻撃しようとすると、反射的に刀で相手を斬り殺す不気味な老人だった。おそらく作者は篁に強い思い入れがあるのだろう。他の殺し屋と比べても別次元の強さなので、今後、阪本とどう絡むのか楽しみである。