『ダンダダン』の凄みは“画力”にアリ! 極限まで台詞を削った表現でたどり着いた境地

『ダンダダン』の凄みは画力にアリ!

 龍幸伸の漫画『ダンダダン』(集英社)の第3巻が発売された。漫画アプリ「少年ジャンプ+」で連載されている本作は、オカルト好きの少年・オカルンと、霊媒師の家系で超能力を操る少女・綾瀬桃が、妖怪や宇宙人と戦うオカルトアクション漫画。

 連載開始と共に大きな話題となった『ダンダダン』は、「このマンガがすごい!2022」(宝島社)に掲載された2021年のトップ漫画ランキング「オトコノコ部門」で4位を獲得。同ランキングには藤本タツキの『ルックバック』が1位、松本直哉の『怪獣8号』が3位に入っており、「少年ジャンプ+」の存在感を見せつけるものとなった。

 同書のインタビューで藤本タツキは「いま、少年漫画でトップクラスの画力」だと龍幸伸について語っていたが、この3巻で龍幸伸は漫画家としてさらなる進化を遂げている。

※以下、ネタバレあり。

 女子高生・白鳥愛羅は、オカルンが無くした“金の玉”を手に入れたことによって霊が見えるようになり、妖怪・アクロバティックさらさらを引き寄せてしまう。

 愛羅を守るため、オカルンと綾瀬はアクロバティックさらさらと戦い勝利を収めるが、愛羅は命を落としてしまう。

 彼女を助けるために自分の炎(オーラ)を与えてくれと懇願するアクロバティックさらさら。綾瀬は超能力を通信ケーブルのようにしてアクロバティックさらさらと愛羅を繋ぎ、炎を流し込む。するとアクロバティックさらさらの過去の記憶が綾瀬の中に流れ込む。

 生前の彼女はシングルマザーで、娘を育てるために働き詰めの毎日を過ごしていた。しかし、娘とお金を奪われた末に人生に絶望し、屋上から飛び降りる。

 その後、妖怪となった彼女は、愛羅に服を掴まれ「お母さん」と言われたことで彼女を実の娘だと思い込んでいた。

 彼女の壮絶な過去を『ダンダダン』は、台詞を極限まで削り、画の力で描こうとする。

 初めにラブホテルで売春する彼女が男からお金を受け取る場面が描かれる。その後、家に帰ってきた彼女は一人娘と楽しい団らんを過ごす。

 トイレの清掃、コンビニの接客、ホテルで売春をするシーンを順番に見せることで彼女が朝昼晩働き詰めだと描いた後、家で娘とバレエのポーズをして和んでいる姿が描かれ「若い時にバレリーナを目指していたのか?」と読者に想像させる。

 その後、部屋に押し入った男たちに彼女は襲われ、娘を奪われる。顔面を殴られた彼女は娘を追いかけて夜道を走るが、追いつくことはできない。

 絶望した彼女は、屋上でバレエを踊った後、華麗なポーズで落下していく。

 用いられる言葉は「おかあさん」「よしよし」「いつもありがとう」のみ。見開きで描かれる落下場面には、美しさの中に、哀れさと滑稽さが混在する不思議なカットとなっている。

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