『3月のライオン』島田開は読者を勇気づける 飄々と、全身全霊を将棋にかける姿勢から学べること

『3月のライオン』島田開から学べること

 ときどき自分が頑張っていることが、バカみたいに思えるときがある。

 仕事で凡ミスをしたり、真っ赤になった原稿が戻ってきたりすると、「自分は本当に何をやっているんだ」と苛立ち、普段から不足気味な自尊心は小枝のようにポキリと折れる。それでもまだここで終わらせたくない、と石にしがみつく思いで、歯を食いしばってPCに向かう。これは『3月のライオン』(白泉社)の島田開から学んだ姿勢だ。

 羽海野チカによる将棋マンガ『3月のライオン』は、2016年にTVアニメ化、2017年には実写映画化もされた、累計発行部数300万部を超える大人気作だ。

 『3月のライオン』の島田開というキャラクターは、主人公・桐山が「無傷では決して 辿り着けるわけもない世界 ――その世界の果てに ひとり 両足をふみしめて 往く人なのだ」と語る、作中の良心的な存在だ。飄々と結果を残していく天才たちからも目が離せないが、あらゆる澱を抱えつつ、全身全霊を賭して、「必死」という言葉を体現するように将棋に向かう島田開のようなキャラクターに憧れないわけがない。

 島田開は将棋八段、A級在位5年だ。名人戦にチャレンジすることもあるが、まだ名人にはなれていない。胃に持病を抱えながら、将棋を指す姿は、“冴えないおじさん”に見えるかもしれない。

 しかし、本作の主人公・桐山零との対局で、島田開の懐の深さは証明される。桐山対島田戦では、桐山は島田との実力差に打ちのめされることとなったが、島田がこう口を開いた。

さて…と
じゃあ
続けようか

  桐山は島田の対応をモノローグで回想する。

――そして気付いた
なめてかかられていた事も
そして今になって
僕がそれに気付いて
うろたえている事も
この人は 全部 全部
見透かした上で
こうして
静かに座っている
のだという事

 この対戦をきっかけに桐山は島田との交友を深め、島田研究会に参加することとなる。桐山にとって、島田は誰よりも身近な「自分より将棋がうまい人間」であり、頼れる兄のような人間なのだと、3巻で描写されている。

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