『3月のライオン』川本あかりは“自分の人生”を見つけることができるのか? 妹たちが自立した後の未来を考察

『3月のライオン』川本あかりは何を望む?

 『ハチミツとクローバー』で知られる羽海野チカの人気漫画『3月のライオン』。二度にわたるアニメ化、神木隆之介主演による実写映画化とメディアミックスも好調である。『3月のライオン』は若くしてプロ棋士となった桐山零と彼を取り巻く人々の物語。「将棋」という珍しいテーマなだけに、「この漫画をきっかけに初めて将棋に触れた」という人も多くいるのではないだろうか。

 天才若手棋士として、プロの世界へ一歩踏み出した零。交通事故により家族を亡くした彼は、内弟子として引き取ってくれた義父の家を出て一人暮らしを始めた。そんなときに出会ったのが川本家の三姉妹だ。この物語は、孤独の中に沈んでいた零が徐々に人としてのぬくもりを取り戻していく物語でもある。彼にぬくもりを思い出させてくれる人の一人が、川本家長女・あかりだ。

川本家長女・川本あかりとは?

『3月のライオン(1)』表紙

 川本家三姉妹の長女・あかり。母親を早くに亡くした彼女は二人の妹・ひなとモモの母親代わりとなるべく、日々家事に育児に一生懸命だ。父親は彼女たちを捨てて家を出てしまった。一番下の妹・モモが保育園に行っている間、あかりは祖父の営む和菓子屋を手伝っている。夜は週に数回、叔母がママを務める銀座のお店でホステスとして働き家計を支えている。気立てのいいあかりは、店の常連客から大人気だ。

 あかりは20代前半という若さにも関わらず、家事に育児に明け暮れている。朝、妹を保育園まで送っていき、日中は祖父のお店で働く。夕方はお迎えに家事に大忙し。まだ保育園の妹とは親子に近い年の差がある。あかりの年代を考えると、まだまだ遊びたい盛りであろう。綺麗な服を着てお化粧をしてデートへ行ったり、OLとして大企業でバリバリ働いたり。同年代の女性たちには、そのようなライフスタイルを送る者も少なくないはずだ。

    一方、あかりは母親を思い起こさせるワンピースを着たり、ふわりとしたロングスカートに身を包んでいる。あまり流行を意識した服装とは言えなそうだ。また、あかりは高校卒業後、すぐに祖父の店の手伝いに入ったことから、今後一般的な企業への就職は難しいだろう。いわゆる「20代のOL」とは違った人生を今後も歩むことになると思われる。

   こうして列挙してみると、一目瞭然なまでに彼女は慎ましい生活を送っている。しかし、それを彼女自身は否定的に思ってはいない。むしろ妹たちのため、望んで母親役を務めている。あかりがここまで家族に献身的なのは、「子はかすがいだというのに自分は役に立てなかった」と感じ、家族がバラバラになってしまったことを自分のせいだと責めてしまっているからだ。その罪悪感から、より一層、妹たちには淋しい思いをさせないようにと明るく振舞っている。

あかりが望むものとは?

    あかりはいつも家族のために行動している。妹のために母親役になりきろうとし、妹たちが淋しい思いをしないようにと母親に似た服装や口調を真似るようになった。そんなあかりであるがゆえに、個人としての願いや欲望といったものは物語の中に出てこない。

「姉として妹たちに幸せになってほしい」
「孫として祖父に健康でいてほしい」

    というものばかりである。あかりの祖父が心配している通り、妹たちが自立してしまえば彼女には何も残るものはないのではないだろうか。そう思わせるほどあかりは自分自身の人生に頓着していないようにみえる。もし、あかりが物語の中で初めて望むものが描かれることになるのであれば、それはこれから先一緒にいるパートナーの存在になるのではないだろうか。

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