ゲーマー目線の攻略に、未来の戦術を持ち帰るタイムリープ……「週刊少年マガジン」の新作スポーツ漫画が面白い
スポーツマンガは長い歴史を持つが、近年でも新しい切り口の作品が続々登場している。本稿では、そのなかでも今後の展開を期待したくなる、「週刊少年マガジン」で2021年下半期から連載が開始した『iコンタクト』と『SECOND BREAK!!』の2作品について考察したい。
現実の試合のために、ゲームでシミュレーション
『iコンタクト』は『エリアの騎士』の作者・伊賀大晃氏が手掛ける、2021年8月からスタートしたサッカー漫画だ。主人公・桜坂獅子(れお)はサッカー部に所属する中学3年生。50メートル走5.7秒の俊足の持ち主ではあるが、その武器を殺してしまうほどシュートセンスのない補欠選手である。
獅子はある日、サッカーゲームのeスポーツの大会で対戦したスゴ腕ゲーマー“サマバケ”と知り合い、シュートの打ち方から筋トレ方法、さらには戦術まで教えてもらう。オンラインゲームで知り合った人がゲームではなく、実際のプレーを指導してもらうという、時代を感じる展開だ。
ただ、この作品の面白さは“現実の試合のためにゲームでシミュレーションする”ということ。当然ながら、実際にプレーするとゲームとは違い、一人称視点でしかピッチを見ることができない。一方、サッカーゲームではピッチを俯瞰して見ることができ、「ここにパススペースがあった」「このタイミングは○○がフリーだった」といった反省ができる。
獅子はゲームという教材を活用して、“俯瞰視点(ゲーマーズ・アイ)”を獲得。プレーヤーとして大きくステップアップする。同誌で連載中の人気作『ブルーロック』でも“空間認識能力”として語られているもので、互いにアクロバティックな作品とも言えるが、サッカーという競技において本質的に重要な観点を押さえていると言えるかもしれない。
ちなみに、『アイシールド21』では泥門デビルバッツvs王城ホワイトナイツ、『テニスの王子様』では越前リョーマvs手塚国光など、序盤に主人公が大きな壁にぶつかるシーンはスポーツ漫画の定番である。
同作でも都大会が始まる前、優勝候補であり全国レベルの強豪校・暁皇中学との“対戦”がある。ただし、それはリアルの試合ではなく、オンラインサッカーゲームでのシミュレーションだ。各選手のリアルな能力をゲーム上に反映させ、間接的に試合をする。優れた運動能力を持ち、獅子たち以上にサッカーゲームで鍛えた巧みな戦術の前に手も足も出せない。現実においても、将来的に選手の能力やクセをより細やかにデータ化し、試合中の判断もAIによって正確にトレースできるようになれば、ゲームにより「イメージトレーニング」を超えるシミュレーションが可能になるだろうか。
いずれにしても、同作の登場人物はオンラインとオフラインを行き来しながら、自身の成長につなげている。『iコンタクト』は数年後のスポーツ界、eスポーツ界の常識を描いているのかもしれない。