『SLAM DUNK』流川楓が示した“天才の生き様” 桜木花道に与えた影響を考察
なんだかんだ言って、天才と呼ばれるキャラクターが好きだ。圧倒的な才能が嵐のようにすべてをなぎ倒していく場面には、血が滾るような高揚感がある。だから、流川楓という天才にも、憧れずにはいられない。
中学時代スタープレイヤーとして活躍し、湘北バスケ部に入部してきた流川。高いオフェンス能力を持つ流川は、1年生ながらすでに全国区と目されている。そして、桜木花道のライバルポジションに置かれた人物でもある。
少年漫画の主人公にライバルの存在はつきものだ。特に、「泥臭い努力型の主人公とクールな天才型のライバル」というのは鉄板で、桜木と流川の関係もこの構図に当てはまる。つっかかりながらも桜木は流川のプレイに目を奪われているし、流川の方も、桜木をあしらいつつもその能力を認めている。山王工業戦の途中、背中を痛めて動きが悪くなった桜木に、流川が「必死でついてこい 交代しねーならよ」と声をかけるシーンなどから見てとることができるだろう。
ただ、プレイヤーとして見た時、この2人をライバルと呼べるかは難しいところだ。少なくとも作中のうちは、桜木は「驚異的なポテンシャルを持ち、時に奇跡的なプレーを見せる素人」の域を出ず、2人の実力には大きな差がある。実際、豊玉戦で桜木は安西先生に、流川の3倍練習しないと高校生のうちには追いつけない、と言われている。
そもそも流川楓という男には、バスケット選手としてこれといった欠点がない。スタミナ不足であることや個人プレイを指摘されがちだが、それが致命的に流川を追い込んだことはないのだ。
例えば海南大附属との試合で、個人技に走る流川について、「ルーキーとしてはズバ抜けてるけどプレイが自己中心的」と評した記者が、その後、その個人プレイで連続得点するのを見て「彼のプレイは自己中心的とかそういったレベルじゃない 彼はすでにゲームを支配している!!」と評価を覆している。さらに言えば、山王戦で味方へパスすることを覚えたことで、流川は高校ナンバーワンプレイヤーの沢北を攻略しており、「個人プレイ」も克服しつつあると言える。
スタミナ不足については本人も自覚しており、海南大戦で敗北した後、「オレのスタミナが最後まで続いてれば…」と自省し、続く陵南戦ではそれをカバーするため、前半戦を捨てて体力を温存することで、見事に陵南とエース仙道を下している。
流川は確かにマイペースではあるが、自分に足りていないものを冷静に受け止め、自力で乗り越える方法を知っている。この精神的な安定感も彼の特徴だ。チームの大黒柱である赤木でさえ、ペースを崩して安西先生や魚住に喝を入れられるシーンがあるなかで、目立った精神的不調がないのは流川だけだ。
桜木の経験のなさ、三井のブランク、宮城の身長など、湘北のスタメンはそれぞれに弱点を抱えている。だからこそ読者はそこに共感し、彼らが壁を乗り越えていく姿に胸を熱くする。だが、流川楓にはそれがない。もともとモノローグが少なく、プレイで見せていくのが『SLAMDUNK』という作品ではあるけれど、その中でも流川が何を感じているかはほとんど描写がなく、その内面をうかがい知るのは難しい。流川がスーパープレイを見せるたびに、ただ周囲は驚愕し、その才能が本物であることを思い知る。そして、それは桜木も例外ではない。
桜木が初めて流川のプレイを見たのは、バスケ部に入部してすぐ、1年と上級生に分かれての紅白戦だ。上級生をごぼう抜きにし、スラムダンクを決めた流川を前に桜木は立ち尽くす。
“それはほんの数秒の間だったが 流川のプレイに目を奪われた自分に桜木は気づいていた”
インターハイ初戦の豊玉戦もそうだ。直前の合宿で2万本のシュート練をこなし、「正しいフォーム」を叩き込まれた桜木は、改めて流川のシュートを見て、初めてそのすごさに気づく。
“桜木自身まだ気づいていないがそれは――2万本打つ中で 常に思い描いた自らの理想のイメージとぴったり重なっていたのだった”
口では決して流川を認めようとしない桜木だからこそ、そのシーンは真に迫るものがある。