『女の園の星』和山やまワールドはなぜ魅力的なのか 独特の余白と対照的なふたつのベクトル

『女の園の星』和山やまワールドの魅力

 漫画作品を読み終えたあと、ハっと目が覚めたような感覚を覚えることがある。作品に没入すると作中の世界と現実の境目が曖昧になってしまうためだ。作品の虜となり作中の世界に深く没入するほど、読み終えた直後にその感覚は大きくなる。

 「このマンガがすごい! 2021」オンナ編の第1位に選ばれた『女の園の星』をはじめ、同賞第5位に選ばれた『カラオケ行こ!』、第24回手塚治虫文化賞短編賞に選ばれた『夢中さ、きみに。』。 名だたる賞で評価を得る漫画家・和山やま氏の作品が数多くの読者を虜にしていることは紛れもない事実であろう。

 高いとはいえない登場人物のテンションが平行線のまま物語は進んでいくものの、不思議と笑いが沸々と湧き上がってくる。そんなエピソードの数々は和山氏の手掛ける作品の魅力として欠かせない要素であるはず。ただ物語の構成や個性豊かなキャラクター、ユーモラスな台詞に限らず、それらを表現する方法にも和山氏の魅力を紐解くヒントがあると感じる。

 本稿では和山氏が手掛けてきた漫画作品の描写に焦点を当て、数多くの人を虜にしてきた魅力について考察したい。

『夢中さ、きみに。』『カラオケ行こ!』の余白

 様々な男子高校生の姿が描かれた『夢中さ、きみに。』、そして男子中学生の「岡聡美」とヤクザである「成田狂児」の関係を描いた『カラオケ行こ!』。ふたつの作品の特徴として、ほとんどのコマの外側に余白が存在している点が挙げられる。これは上記作品が印刷時に見切れない範囲の指標として用いられる「内枠」のなかでコマ割りを完結させているからであろう。

 内枠のなかで描くコマとその範囲よりも外側まで描写するコマを使いわけ、ページのなかに緩急を出す漫画作品は多い。和山氏は上記作品でその手法を用いていないが、コマの枠を越えて描かれるシーンが多く存在する。

 『カラオケ行こ!』において、自分の名刺を渡そうとする狂児の手はコマの枠線を超え、つぎのコマにいる聡美のもとへ伸びる。また『夢中さ、きみに。』では低い位置にある看板を撮影しようとする「松屋めぐみ(おいも3兄弟)」がコマの枠線を手で掴みながらしゃがんでいる。

 コマの枠線を越えた描写によって、平面であるページに立体感が生み出される。余白で囲まれたなかでコマの内側から外側へ向かう表現を描く和山氏の世界は、まるで箱庭を覗き込んでいるかのような感覚を覚える。

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