水島新司作品をいまの子どもにこそ読んでほしい理由 数多の功績を振り返る

水島新司の数多い功績を振り返る

3.日本野球の可能性を提示

 水島先生は作中で数多くの多種多様な野球選手を描いてきた。50歳を過ぎても現役を続ける選手。女性のプロ野球選手。甲子園で163kmのボールを投げる投手。プロで165kmを投げる投手。5打席敬遠される偉大なスラッガー。プロ野球の現場で投打の二刀流で活躍する選手。いずれも漫画の中だから、漫画を楽しくするためのファンタジー要素だったかもしれない。

 しかし、先生がそれらを描いた昭和の時代から平成〜令和になり、上記すべてが現実の選手によって実現されてしまった。現実はついに漫画に追いついてしまい。もはや漫画を越える選手まで現れてしまった。それらはトレーニング理論や技術の進歩がもたらしたものでもあるが、水島新司という作家の想像力に触れ、夢の実現を信じ続けた人たちの努力の積み重ねもあったのではないか。ウルトラセブンを見て宇宙飛行士になった人、アトムを見てロボット工学の道に進んだ人。理屈で何かを諦めるのではなく、純粋に夢を追い続ける人たちに水島先生がその可能性を提示し続けてきたからこそ、のちに漫画のような選手たちが現れ、やがて漫画を超えていったのではないだろうか。

 昨今、日本の子どもたちの野球離れが叫ばれて久しいが、だからこそ、今の子どもたちに『ドカベン』をはじめとした水島先生の野球漫画を読ませてほしい。絵柄は古くても、その根底にある水島先生の愛した野球というスポーツの魅力、キャラクターたちの個性は、十分伝わると思う。そして先生の漫画を読んで野球を始めた子が日本のプロ野球で活躍する姿を、きっと先生は天国で楽しそうに見ているだろうし、その選手がメジャーにいってしまったら、審判にヤジっているときの勢いで、めちゃくちゃ文句を言っていることだろう。

 水島新司先生のご冥福を心よりお祈り申し上げます。

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