孤独は成功のスパイスーー『王様ランキング』に込められた作者・十日草輔のメッセージ

『王様ランキング』が教えてくれること

※本稿では原作コミック6巻、アニメ「第十二話 戦いの足音」までのネタバレを含みます。

 アニメ『王様ランキング』は第2クールに突入し、冥府での修行を終えた「ボッジ」はボッス王国への帰還を始めた。オープニング、エンディングテーマが一新したように、ボッジのたたずまいも物語の序盤とは比べ物にならないものになったといえるだろう。

 原作漫画ではこのあと冥府の罪人たちが侵略を開始し、ボッス王国を舞台とした争いが起きることとなる。争いを予期していたかのようにボッジをはじめとする登場人物たちは強さを求め修行に励んだ。

 彼らが強くなるために必要だったものは何だったのか。本稿では冥府の罪人がボッス王国を侵略する前後で見られた登場人物の姿から、本作における理想の自分に近づくための方法を考察したい。

デスパーとドーマスの共通する価値観

 「カゲ」と共に冥府と呼ばれる世界へ足を踏み入れたボッジは、ボッス王国の四天王のひとり「ベビン」を育てた過去をもつ人物「デスパー」のもとで修業を行うこととなった。デスパーは修行のなかでボッジに数多くの武器が眠る倉庫へ案内する。そこで彼は「自分に合う武器を見つけなさい」と告げボッジに武器を選ばせた。

 修行がはじまった直後、デスパーは「強くなるためにまず自分をよく知らなければなりません」「そして相手を知ること」とボッジに語り掛けている。人は武器で何倍も強くなることができ、自分を知ることにもつながる。そんな考えのもとデスパーは自分に合う武器をボッジに見つけさせたのだ。自分に合った武器を見つけ修行に励んだボッジは、自分よりも体の大きな相手を一瞬で気絶させてしまうほどの力を手にいれたのである。

 ちなみにボッス王国の危機を察知した「ドーマス」が「ホクロ」の修行に当たった際、ドーマスがホクロに合った武器を贈る様子が見られた。この場合はホクロ自身が武器を選んではいないが、自分に合った武器を用いることを必要とするドーマスの考えは、デスパーの哲学と共通している。

 本作の世界において、自分にあった武器を用いること、自分を知ることが自身の能力を高めるための要素として認識されているのだろう。

修行を成功させるためのスパイスとなる存在

 デスパーの修行によって強さを手に入れたボッジであるが、その修行は1日を終えると倒れるように眠ってしまうほど過酷なものであった。作中で修行するボッジと対比するように描かれたのは、魔法の鏡との契約によって力を得ようとする「ダイダ」の姿である。

 はじめは自分の可能性に賭けてみたいと話していたダイダであったが、ボッジの存在を意識するあまり魔法の鏡に力を手に入れたいと願うようになる。するとダイダは魔法の鏡によって暗闇のなかに閉じ込められたのであった。

 先の見えない闇のなかで、ダイダは泣き叫び自身の感情をあらわにした。気持ちが落ち着くと大きく息を吐いて床に寝ころび、ダイダは思索に耽(ふけ)る。

 もしかしたら耳の聞こえないボッジもこんな世界で生きているのかもしれないこと。幼いころにボッジと一緒に遊んでいたこと。自分のプライドがふくれ上がりボッジを弱者として見下すようになったことーー。

 過酷な修行にひとりで励むボッジを心配していたカゲに対し、デスパーは「孤独なことも成功のスパイスなんです」と語りかけた。そしてボッジはカゲと距離を取りながら修行に励み、力を手にしたのである。

 暗闇に閉じ込められたダイダも孤独のなかで過ごし、ボッジをはじめとする相手を知ること、そして愚かであった自分を知ることにもつながった。孤独が相手や自分を知る機会になると知っていたため、デスパーは孤独を成功のスパイスと捉えていたのかもしれない。

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