文芸書ランキングに並んだ“救済”の物語 明日を生きていく力としての小説

 6位の町田そのこ『星を掬う』もまた、救済の物語。主人公の千鶴は、夫の暴力から離婚によって逃れたはずなのに、いつまでもどこまでも追いかけてくる元夫から、なけなしの金も奪われてしまう。生きるため、コンテストの賞金狙いで、母との思い出をラジオに投稿したのをきっかけに、幼いころに自分を捨てた母・聖子と再会するのだけれど、彼女は悪びれるどころか千鶴を突き放すような姿勢をみせるうえ、若年性認知症も発症している。母の営むシェアハウスに移り住んで身を隠すことにした千鶴は、さらに、自分以上に実の娘のようにかわいがられている恵真という美しい女性の存在を見せつけられる……。

 はっきり言って、不幸だしかわいそうな身の上である。夫からの暴力はもちろん、飢えて勤め先のパン工場で無意識に菓子パンをむさぼる描写も、壮絶だ。せめて自分を捨てた母には謝ってほしい、償ってほしい、と思うのも当然だ。けれど人は、誰しも、自分に都合よくは動かない。満たされない心を抱えて苛立ちを募らせる千鶴は、自分を過剰にかわいそうな存在にしたてあげても何も変わらないこと、むしろそうし続けることで自分も誰かを傷つける加害者側にまわってしまうことに気づいたときから、少しずつ変わっていく。

 どんなに理不尽でも、「どうして私がこんな目に」と絶望する日が続いても、自分の人生は自分で背負って前に踏み出さなければならないのだということを、本作は教えてくれる。

 なお、西加奈子の5年ぶりの長編である10位『夜が明ける』もまた、貧困や虐待、過重労働といった現代社会の問題点を通じて、希望を見出していく物語。気軽に手を出すには重たい作品ばかりだけれど、読めばきっと、明日を生きていく力になってくれるはずだ。

 とはいえ、やっぱり、多少はスカッとしたい。という人におすすめなのは、8位の辻村深月『闇祓』。モラハラやセクハラというにはやや薄い、けれど確実になんらかのハラスメントではある行為を「闇ハラスメント」と名づけ、闇ハラによって他者を支配し、コミュニティに侵食し、やがて崩壊させていく不気味な人々について描いていく本作は、著者にとって初の長編ホラー。もちろん読み味は薄気味悪いし、巧妙に人を貶めていく悪意にぞわぞわさせられる。読み終えたあとは、自分のまわりにも“彼ら”がいるのではないかと、疑心暗鬼にもなってしまう。それでも、サイキックアクションのテイストもある本作は、純然たるおもしろさを提供してくれるエンターテインメント。あわせて、ぜひ。

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