文芸評論家がミステリーファンにおすすめするファンタジー『聖女ヴィクトリアの考察』

文芸評論家がミステリファンに贈る1冊

 いつものように書店をブラブラしていたら、平台に積まれていた、春間タツキの『聖女ヴィクトリアの考察 アウレスタ神殿物語』が目についた。帯に書かれた「第6回角川文庫キャラクター小説大賞〈奨励賞〉受賞作」と、タイトルの〝考察〟が気になったからである。そしてカバー袖を見たら、「『焦田シューマイ』名義で2020年『結婚初夜のデスループ ~脳筋令嬢は何度死んでもめげません~』にてデビュー」とあるではないか(以下『結婚初夜』と表記)。えっ、そうだったのか。これは買わねばならないと、大急ぎで購入。というのも『結婚初夜』が、ファンタジー世界を舞台にした、実に面白いループ・ミステリーだったからだ。

 『結婚初夜』は最初、ネットの小説サイトに掲載。商業出版をする際に大幅な加筆修正が行われ全2巻で完結した。主人公は、武人一族バルト家の令嬢のカトレアだ。なぜか高位貴族ヴラージュ公爵家の主人で、美貌のクリュセルドにプロポーズされ、慌ただしく結婚する。ある理由でクリュセルドと初夜を迎えることを拒否して、駄々をこねるカトレアだが、兄の手によって無理やり公爵の部屋に連れていかれる。ところがそこにクリュセルドの姿はなく、彼女は何者かに殺された。

 しかし気がつくと、駄々をこねる時点まで、時間が戻っている。自分がループしていることを理解し、訳が分からないままに、なんとか生き延びようとするカトレア。だが殺されなくても、朝になるとループする。何十回とループを繰り返しながら彼女は、事件の真相に迫っていくのだった。

 ループのたびに行動を変えることで、事実の断片が積みあがっていく。なるほど、ループを使った手掛かりの出し方が達者である。といってもカトレアは頭脳明晰ではなく脳筋だ。自分を殺した相手の正体を掴むために、望んで死地に突っ込み、何十回も殺される。この破天荒な行動が愉快痛快。さらに2巻まで含めて明らかになる真実は、意外なほどスケールが大きく、特殊設定ミステリーの面白さを堪能できた。

 その作者(ペンネームの変更は英断である)の新作だから、期待せずにはいられない。ワクワクしながら本を開いたら、『聖女ヴィクトリアの考察』もファンタジー世界を舞台にしたミステリーであった。

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