『ザ・ファブル』田高田社長は“理想の中年”? 冴えないけれど尊敬できる男気と優しさ
殺し屋や反社会的勢力など、「ヤバい奴」が多数登場する漫画『ザ・ファブル』(南勝久/講談社)。そんななかで、終始一貫「良い人」として描かれているのが、デザイン会社「オクトパス」を経営する田高田(たこうだ)社長だ。
今回はそんな田高田社長の優しさを振り返ってみたい。
※本稿は『ザ・ファブル』のネタバレを含みます。
情で明をオクトパスに採用
超一流の殺し屋でありながら、所属する組織から一般人として暮らすことを命じられ、ごく普通の仕事を探していた佐藤明。しかし、その風貌からか、あるいはウソだらけの履歴書のせいか、複数の面接を落とされてしまう。
そこでたまたま明と再会したオクトパスの社員であるミサキが、田高田社長のもとに明を連れて行く。ミサキは「かわいそうな人なんです」「不良に殴られて泣いていたんです。そんな怖い思いをしても必死でこの町で仕事を探しているんですよ」と訴える。
田高田社長は明の履歴書に目を通し、エイプリルフール生まれであることや、趣味欄に「ジャッカル富岡」とお笑い芸人の名前が記載されていることを笑いつつも、配達係が辞めてしまっていたこともあり、大阪の最低賃金を下回る時給800円で採用を決めた。
この時点では「ゆとり世代は仕事をナメているやつが多い」「ボーナスもないぞ」と発言し、嫌味なブラック社長を匂わせていた田高田社長だが、ミサキの「情に訴える」手法によって怪しい雰囲気を持つ明の採用を決断している。実は面倒見の良い人物であるところが伺えた。
ミサキと明をくっつける
ミサキと明が「良い雰囲気」になっていることを察知した田高田社長は、2人を「くっつける」ことを思いつき、クリスマスパーティーに誘う。
明の妹(明と洋子はともに組織の人間であり、本当の兄妹ではない)である洋子の家でクリスマスパーティーが開かれることになると、明の横にミサキを座らせたうえに、2人にトナカイのコスチュームを着せる。様子を見た田高田社長は「自然と親近感がわくはず」などと期待していた。そして3人のためにプレゼントを用意し、渡すという心遣いを見せる。
さらに明との腕相撲でわざと負け、ミサキに“強い明”をアピールしようと画策する。しかし、明も洋子の指示で社長に負けようとしていたため、腕相撲がまさかの“引っ張り合い”に。結局、酔った田高田社長が明に引っ張られて勝ってしまう。ところが負けた明を心配するミサキを見て、「2人がイチャイチャできたなら成功」と心のなかで叫んでいた。
第一部の終盤で、唐突に明がミサキにプロポーズした際には、驚きつつも喜んでいるようだった。恋愛感情への理解が乏しい明にとっては、まさに恋のキューピットともいえる。
洋子の父親役に
クリスマスパーティーで明とミサキを2人にするため、洋子を酔い潰すことを考えた田高田社長。しかし「ミスアルコールガール」の洋子にテキーラを飲まされ、トイレで吐いてしまう。
洋子はテーブルの上で「負け」を装い寝たふりをしていると、田高田は抱えあげて、布団へと連れて行く。危ない人物が多数登場する『ザ・ファブル』だけに、実はスケベ社長だったというオチも考えられたが、頭をポンポンと叩くと、掛け布団をかけて寝かしつけた。
寝たふりをした洋子は、布団の中から田高田社長が机の上で寝る様子を見ながら、外から帰ってきた明に対して「タコちゃんあたしを抱っこしてお布団まで運んでくれたの。酔ってフラフラなのに、力を振り絞って。自分の子供みたいに。お父さん思い出して、ちょっと泣いちゃった」と感激した様子だった。
この一件や、田高田社長が3人のためにプレゼントを用意したこと、明とミサキをくっつけようと暗躍していることを感じた洋子は、田高田社長を「タコちゃん」と父親のように慕うようになる。
洋子は、悪役の山岡が殺しのゲームリストに田高田社長を入れていたことに対して「許せない」と激怒し、ボディーガード役を買って出たこともあった。