『ザ・ファブル』が示す、最強の武器とは? ファブルという名に込められた意味

『ザ・ファブル』が示す“本当の強さ”

 模型や武器が大好きなライターのしげるが、“フィクションにおける武器”あるいは“フィクションとしての武器”について綴る新連載「武器とフィクション」。第2回は「週刊ヤングマガジン」にて、待望の第二部が連載中の『ザ・ファブル』を取り上げる。“人を殺さない”という制約を立てた最強の殺し屋・佐藤明の日常と戦いを描いた本作は、リアルに描かれる武器に注目が集まりがちだが……。(編集部)

※本稿は『ザ・ファブル』のネタバレを含みます。

『ザ・ファブル』のディテールはとにかく現実的

 この作品のタイトルにもなっている「fable」は、寓話、伝説、神話、作り話や嘘といった意味のある単語である。そもそもタイトルの時点で「これは作り話ですよ」と明言されている物語、それが『ザ・ファブル』だ。

 にも関わらずと言うか、だからこそと言うべきか、『ザ・ファブル』のディテールはとにかく現実的であろうとする努力が見える。登場人物の会話や劇中に登場する車、服装、食べているものなど、我々の日常生活で目にするものと変わらないものばかりが現れる。主人公である佐藤らが使う武器に関しても、その姿勢は通底している。

 『ザ・ファブル』は、物語の冒頭でまず佐藤が武器を捨てるところから始まる。これから1年、大阪で人を殺さずに過ごさなくてはならない。殺して問題を解決することに関しては超一流の佐藤だが、その最大のアドバンテージを封じられた状態から物語がスタートする。彼がメインで使用していたのは、実在するカスタムガンメーカー、ナイトホークカスタムが製造した拳銃だ。

 どうやら作画に使用されたのはオリジナルモデルらしく、佐藤が使用していたものと完全に同じモデルはナイトホークのラインナップには存在しないようだが、実際に同社の拳銃はコンベンションシューティングにも使われる。命中精度の高い、高級カスタムガンであることは間違いない。佐藤は銃本体は自分の手元に置き、発砲機能の根幹であるバレルのみを処分して大阪に向かう。

 笑ってしまうほどうまい導入である。発砲時にバレルは銃弾に線状痕と呼ばれる痕を残すため、銃弾から遡って犯行に使用された銃を特定することができる。そのため、仕事が終わった後で佐藤はバレルを毎回捨て、銃の機関部は手元に置きつつ仕事に使える状態をキープしていた。佐藤の所属する組織は高価なカスタムガンのバレルを毎回捨てられるほど巨大であることを表現し、さらにバレルが存在しないことで銃の発砲機能がなくなったことは見せつつ、拳銃自体は佐藤の手元に残してその後の展開への含みを持たせる。南勝久のもうひとつの代表作である『ナニワトモアレ』シリーズでは銃の出番はなかったが、『ザ・ファブル』ではここまでやる、という意思表示を感じる。

 『ウツボ編』に登場した殺し屋、鈴木が使用していた拳銃がMk.22 Mod0、いわゆるハッシュパピーだったのも、なんとも生々しい。劇中でも描写されていたように、この拳銃は発砲後のスライドの後退を止めるためのストッパーがついており、そのためサイレンサーと組み合わせれば銃弾の発射音を大きく減少させることができる。しかも、親指でストッパーを操作すれば通常のオートマチック拳銃と同様に連射もできる(この点は劇中、鈴木がフードとコードと戦った際に説明されていた)。日本国内の住環境で暗殺のために選ぶのなら、確かに理にかなったチョイスだろう。

 だがしかし、実のところ南勝久の興味は銃や武器のスペックにはない。というか、実際に環状族として喧嘩に明け暮れていたであろう南の戦いに関する考えは、武器とは別のところにある。それは「どのような武器や条件であっても、最終的には使用者の身体とセンス次第である」という結論なのではないか。例えば、環状族同士の抗争を描いた『ナニワトモアレ』にもバットや木刀、メリケンサックや警棒など大量の武器が登場したし、その使われ方や与えるダメージに関する描写も濃密だった。しかし、最終的に作中最強だったのはゼンちゃんである。どのような武器にもビクともせず、ひたすら張り手のみで相手をどつきまわす男が、最強の存在として描かれた。

 時には「車で喧嘩相手を撥ねる」というムチャクチャな攻撃すら飛び出した『ナニトモ』だったが、劇中での描写の濃さ、「強さ」の表現の度合いは、ゼンちゃんの張り手の方がずっと上だった。ここには、南が「本当の強さ」とはどこにあると考えているのか、そのヒントが埋まっているように思う。南は、武器の優劣では戦いの勝敗は決まらない、体を張った戦いの強さは、戦う者の身体とセンスによって決まると考えているのだ。

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