『ONE PIECE』はなぜ一コマに情報を詰め込むのか? 徹底した書き込みに宿る、尾田栄一郎の信念
一方で、尾田栄一郎氏は物語よりも演出に重きを置いている作家で、そこに特筆すべきポイントがあると、神木氏は続ける。
「『ONE PIECE』は長大な物語を評されることが多いですが、過去のインタビューなどによると尾田先生自身は漫画にとって重要なのはあくまでも演出だという立場を取られているそうです。最初に描きたいシーンを思い浮かべて、それをもっとも効果的に見せるにはどうすれば良いのかという発想から物語を紡いでいると言います。たとえばメリー号がエニエス・ロビーに来た時の話はもっとも感動的なシーンの一つですが、私なんかがプロットをそのまま箇条書きに紙に書き起こしても涙の一つもでないでしょうし、誰の心にも響かないと思います。あの奇跡のようなシーンに行くまでのコマ割りやセリフ、それぞれの表情、周囲の反応や騒音などの全てが非常にドラマチックな演出を生み、多くの読者の心を揺さぶるものになっているのではないでしょうか。人の心を動かすのは簡単ではなく、キャラクター一人ひとりの個性や状況など多くの要素が折り重なることでより感情移入ができたり、感動したり興奮するのだと思います。そう考えると、これだけ『ONE PIECE』が多くの方に愛される漫画になっている要因の一つが、まさに”書き込みの多さ”とも言えるのかもしれません」
現在、『ONE PIECE』の世界で最強とされる四皇の一人、カイドウと真っ向勝負を挑んでいるルフィたち。連載当初ははるか遠くにあった「海賊王」の称号もいよいよ見えてきた。尾田栄一郎氏が念入りに書き込んだコマの隅々まで、じっくりと読み込んでほしい。