車いすラグビーは過激な球技!? ぶつかりあう楽しさを描いた『マーダーボール』が熱い
荒々しい画風が競技の魅力と絶妙にマッチ
そんな競技の魅力と、『ギャングース』でもみせた荒々しいタッチの絵が絶妙にマッチしているのが、本作の大きな魅力だ。犯罪者たちの抗争を描いた『ギャングース』も激しい作品だったが、こちらも激しさという点では負けていない。パラスポーツについて、おとなしいものなんだろうと思っている人がいるかもしれないが、車いすラグビーは、時に健常者のスポーツよりも荒々しい。本作は、その魅力を絵の力で存分に表現している。
本作は、主人公が素人の状態から物語がスタートするので、車いすラグビーの競技としてのポイントも、ルールも物語を追うだけで自然と頭に入ってくる構成が心がけられている。例えば、障害の重さに対してポイントがあり、4人のプレーヤーの持ちポイントが8ポイントを超えてはならず、そのために障がいの軽い選手「ハイポインター」だけでなく、障がいの重い「ローポインター」もチームに欠かせないこと、そして、ローポインター選手がディフェンスや攻撃進路を作るアシストとしていかに重要な仕事をするのかなど、この競技ならではの駆け引きやチームプレーのあり方を見せてくれる。
また、車いすラグビーは男女混合で行われる。今回のパラリンピック日本代表にも女性の倉橋香衣選手がいるが、この激しいスポーツが男女混合であるというのも、知らない人間からすると驚きだ(女性がチームに加わると持ち点が0.5点加算される)。
だが、ローポインターの選手がハイポインターの選手をがっちり抑えることが起こるこのスポーツでは、体格の面で不利に思える女性だから男性に敵わないということはないのだ。事実、今回のパラリンピックでも倉橋選手は、的確な読みとポジショニングで、体格に優れたハイポインターの外国人選手を何度も抑えていた。ちなみに、本作の主人公アサリは、事故前は体操の選手だったが、倉橋選手も器械体操の経験者だという共通点がある。
スポーツを題材にした漫画は数多い。野球やサッカーなどのメジャースポーツからカバディのようなマイナースポーツまで、多種多様なスポーツが題材にされているが、その波はパラスポーツにも届き始めている。これまでもマンガは、様々なスポーツの魅力をわかりやすく伝えてきたが、本作も「マーダーボール」と呼ばれるほどの激しさを秘めた車いすラグビーの魅力を、的確に伝えてくれる。
いまや日本だけでなく世界中で、漫画をきっかけに競技のファンになる人も多い。本作を観て「マーダーボール」の「ぶつかりあう」楽しさを目撃してほしい。