ビッグ・マムは『ワンピース』の世界で異色の存在? “二面性”を描くホールケーキアイランド編を考察

ホールケーキアイランド編を考察『ワンピース』

※本稿には『ONE PIECE』ホールケーキアイランド編のネタバレが含まれます。

 「週刊少年ジャンプ」で連載されている尾田栄一郎の『ONE PIECE』(集英社)は、麦わらの一味を率いる少年・ルフィが海賊王を目指して冒険する長編ファンタジー漫画だ。

 第82巻から第90巻にかけて展開されたホールケーキアイランド編は、ホールケーキアイランドと周辺にある34の島々から成る万国(トットランド)と呼ばれる海域が舞台となっている。

 政略結婚のために連れていかれた仲間のサンジを取り戻すため、ルフィたちはホールケーキアイランドに潜入する。しかしそこは新世界に君臨する四皇の一人に数えられる大海賊のビッグ・マム(シャーロット・リンリン)が支配するお菓子の国だった。

 ホールケーキアイランド編は大きく分けて二部構成となっており、82巻から85巻にかけては、政略結婚のために連れ去られたサンジをルフイたちが助け出す物語となっている。ここでは、実はジェルマ王国の王子だったサンジの過去が語られると同時に、改めてルフィとサンジの絆が強く打ち出されていた。

 対して、86~90巻の後半に展開されるのがビッグ・マム海賊団とルフィたちの衝突だ。

 タイヨウの海賊団船長のジンベエの仲介で、ファイアタンク海賊団船長のカポネ・ベッジと同盟を組んだルフィは、サンジの結婚式に参列したサンジの家族(ヴィンスモーク家)の殺害を防ぐためにビッグ・マム暗殺計画に協力する。結婚式当日、サンジの家族の殺害は阻止したものの、ベッジによるビッグ・マム暗殺は失敗する。

 その後、ルフィたちはホールケーキアイランドから脱出しようと試みるのだが、強烈なインパクトを見せたのは、なんと言ってもビッグ・マムだ。

 ビッグ・マムは巨大な身体を持つ女性で、彼女が統率するビッグ・マム海賊団は39人の娘と46人の息子を中心とした家族で運営されている。文字通り「巨大な母性」そのものと言える存在で、母親の影が極端に薄い『ONE PIECE』の世界においては異色の存在だと言えるだろう。また、彼女には食べたいと頭に浮かんだものを口に入れるまで破壊を続ける「食いわずらい」という癇癪がある。

 第83巻では癇癪を起こしたビッグ・マムが、お菓子でできた国の建物を食い尽くそうとして街を破壊する姿が描かれる。その姿は荒ぶる神という印象で、国民はビッグ・マムを崇拝しながらも、彼女の癇癪を恐れて生きていた。

 ビッグ・マムは人間の魂を吸い取り、その魂でホーミーズと呼ばれる存在を作り出す「ソルソルの実」の能力者で、国民は安全と引き換えに半年に一度、一カ月分の魂(寿命)を国に払わなければならない。お菓子の国というファンシーな外観の裏側で、圧倒的な力でえげつない支配をおこなうという二面性がビッグ・マムの恐ろしさだ。しかも本人は、自分のやっていることは常に正しいと思っている。

 人間でありながら、5歳の時点で巨人族の子供に近い体格だったビッグ・マムは故郷に甚大な被害を与えた罰で国外追放となり、巨人の島・エルバフに置き去りにされた。そこでシスター・カルメルに拾われ、「羊の家」という施設で育てられる。

 立場、血筋に囚われずにどんな子供でも受け入れる「羊の家」で育ったビッグ・マムは幸せな日々を過ごしていたのだが、エルバフの冬至祭でおこなわれた断食の儀式で「食いわずらい」を起こし、巨人族の村を壊滅させてしまう。

 島を出たビッグ・マムは、カルメルたちと共に新たな羊の家で暮らしていた。しかし、誕生日の日にシスター・カルメルと子供たちは姿を消してしまう。その時の一部始終を遠くから見ていた、後に最初の夫となる海賊崩れの料理人・シュトロイゼンと共に、彼女はビッグ・マム海賊団を結成することになる。

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