『ONE PIECE』コビーはなぜ強くなれたのか? “努力”を肯定する尾田栄一郎の作家性
単行本の巻数も100巻目前となり、クライマックスに向け「週刊少年ジャンプ」のトップを走り続ける『ONE PIECE』(集英社)。「悪魔の実」「海賊王」などファンタジー要素満載の本作だが、作中にはリアリティのボーダーラインとも言える“1人の男”が存在する。そこで本稿では少年漫画『ONE PIECE』におけるリアリティの在り方と、連載当初から登場するあるキャラクターの存在意義について考察していく。
漫画作品において、リアリティは1つの大切な要素である。リアリティが無さすぎると感情移入出来ず、有りすぎるとロマンに欠ける。特に少年漫画であれば、そのバランスはよりシビアになるだろう。そして王道の少年漫画である『ONE PIECE』で、リアリティのボーダーラインとなっている人物。それが原作第2話で初登場する、コビーである。
東の海で小悪党として海賊稼業を行う、アルビダ海賊団の航海士兼雑用として登場したコビー。登場当初のコビーは根性無しで、アルビダへの恐怖心からヘラヘラと雑用をこなすキャラクターだった。しかし当時の彼には「悪い海賊を捕まえる海兵になる」という夢がある。そして彼はルフィとの出会いによって、自分の信念のもとアルビダに抵抗し、海軍への入隊を決めたのだった。その後400話以上も物語を進めた原作45巻第431話にて、コビーはガープの部下として再登場を果たす。
CP9との激闘で疲弊し眠りながら食事を取るルフィを、1人の海兵が殴り飛ばす。激痛に苛まれながら目を覚まし、その海兵を「じいちゃん」と呼ぶルフィ。一味が、“海軍の英雄”であるガープがルフィの祖父である事実に驚きを隠せない中、外出していたゾロが海軍相手に大暴れ。それを見たガープは、2人の部下にゾロを止めてみろと命令した。1人の海兵はククリ刀でゾロに対抗し、もう1人はCP9が使用した「剃」を繰り出しルフィを驚かせる。結局はルフィとゾロの前に為す術なく倒されてしまうが、その海兵こそかつて泣き虫で弱虫の雑用として登場した、コビーであった。
また彼は90巻第903話でも、魚雷を感知し鷲掴みするとんでもない海軍大佐として、再び登場する。その時には最強の剣闘士であるキュロスからも、英雄として認知されるほどの強者となっていた。