「27クラブ」の真相に迫る『才能のあるヤツはなぜ27歳で死んでしまうのか?』 ジーン・シモンズの静かな訴えとは?

ジーン・シモンズが語る「27クラブ」

 実際、ジーン・シモンズは全編を通し、アーティストの人生や生活、破綻を辿った過程を緻密に記し、まるで優れた精神科医のように、否定も肯定もせず、全てを受け止め、理解するようにつとめている。

 その文章を辿ることで読者は、そのアーティストの生い立ち、音楽的な背景、スターに駆け上る時期の高揚感、当時の音楽シーンにおける価値、そして、死の直接的/間接的な原因を正確に理解できるはずだ。

 たとえば「カート・コベイン」が、自殺やアルコール依存の発生率が高いワシントン州アバディーンで育ち、両親の離婚により心理的なダメージを受け、ティーンの頃から不安やパニック感を和らげるためにマリファナを使っていたこと。

 「エイミー・ワインハウス」が歌うことを“セラピーや薬のようなもの”と捉え、それがビジネスになったことで心の平穏を失ったこと。そういう個人的な体験を時系列に記すことでジーン・シモンズは、読者に対し、「死の魅惑など単なる神話に過ぎない」ことの理解を促す。そう、この本が訴えかけている本質は、メンタルヘルスを維持することの大切さであり、死の誘惑から自分を守ることの術なのだと思う。

 エルヴィス・プレスリー、マーク・ボラン、シド・ヴィシャス、レフト・アイ、アヴィーチーなど、「27クラブ」のメンバー以外にも、若くして命を落としたアーティストは数多い。そして言うまでもなく、この問題は2021年においても(もちろんこの国においても)深刻な被害を生み出し続けている。

 エンターテインメントにおける搾取の構造、ドラッグやアルコール、鬱やパニック障害などに対する理解と対策は確実に進んでいるが、インターネット、SNSの普及により、“見ず知らずの人間から常に見られ、否定的な意見を投げつけられる”という新たな問題が発生。

 アーティストのみならず、俳優やモデル、アスリートに至るまで、有名人に対するメンタルケアの方策は各業界が手を取り合って取り組むべき課題だろう。理想とすべきは、全ての人がストレスなく才能を発揮する世界。ジーン・シモンズが自らのロックスターとしての経験、ルポライターとしての知性によって紡いだ本書『才能のあるヤツはなぜ27歳で死んでしまうのか?』はまちがいなく、それを実現するための大きなヒントになるはずだ。

■書籍情報
『才能のあるヤツはなぜ27歳で死んでしまうのか?』
著者:ジーン・シモンズ
定価:1,320円(本体1,200円)
発売日:発売中
出版社:星海社
https://www.seikaisha.co.jp/information/2021/05/07-post-180.html

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