オーラル山中拓也、初エッセイ『他がままに生かされて』の“核”とは? 生き方、言葉、音楽の結びつき

オーラル山中拓也の初エッセイレビュー

  2019年3月17日に行われたTHE ORAL CIGARETTESの横浜アリーナ公演で山中拓也(Vo&G)は、満員のオーディエンスに向かってこう語り掛けた。

「俺らが求めているのは愛情、憎しみ、冷たさ、温かさ。俺らはひとりでは生きていけない。なぜならそこには感情があるから。感情は自分のために向けるだけじゃない。人の感情とぶつけるもの! それをあなたたちはできていますか?」

「俺らは感情にこだわり続けます。この世から人間の感情がなくなりませんように」

 この言葉はそのまま、山中のフォトエッセイ『他がままに生かされて』の核になっている。もっとも大事なのは、人間の感情。それを抱え込むのではなく、他者の感情とぶつけ合うことで新しい何かが生れるーー山中はそうやって自らの音楽に結びつけてきたのだ。

シリアスな出来事が続く

©Reishi Eguma (C-LOVe CREATORS)

 THE ORAL CIGARETTESのボーカリストにして、作詞・作曲を手がけている山中拓也。音楽に詳しくない方に説明しておくと、彼はまちがいなく、現在のバンドシーンを象徴するキーパーソンのひとりだ。メジャーデビューは2014年。00年代のバンドシーンは、“夏フェスで注目を集め、動員を伸ばす”ことが王道だったのだが、そこで勝ち上がってきたバンドの一つがTHE ORAL CIGARETTESだったのだ。

 山中には明らかにフロントマンとしての華があった。“バンドマン=身近なお兄ちゃん的存在”が定番になっていた当時のシーンにおいて、際立った存在感とあからさまな上昇志向を併せ持つ山中のキャラクターは明らかに異質であり、新たなスターの誕生を予感させるに十分だった。実際、山中が率いるTHE ORAL CIGARTEESは順調に音楽シーンを駆け上がり、04Limited Sazabys、BLUE ENCOUNTらとともに一時代を築いた。冒頭に記した横浜アリーナ公演を含むアリーナツアーは、このバンドの成功を端的に示した記念碑的なライブであり、山中はバンドマンとして、大きな成功を手にしたと言っていい。

 だからこそ、本作『他がままに生かされて』の内容にはかなり驚かされた。

“泣き虫でイジめられた幼少期。反抗期で親を泣かせた中学時代。人を信じられなくなった高校時代。大学受験の失敗。母親の病。ギャンブルに狂った大学時代。初めての死亡宣告。そしてバンドで生きることに腹を括ってから、「いつか見てろよ」の反逆心のみで突っ走ってきた今の僕に至るまで。全てをここに記しました。”(はじめに/17P)

 と記されている通り、過酷とも言える半生がとことんリアルに描かれているのだ。最初は「ここまで書いてしまったら、バンドの活動に良くない影響が出てしまうのでは?」と感じたほどだったが、読み進めるにつれて、山中が本を書かなければいけなかった理由が少しずつわかってきた。確かにシリアスな出来事が続くのだが(特にバンドの活動が本格化した後、生死を彷徨うほどの状態になった場面は本当に驚かされた)、そのたびに彼は周囲の人と向き合い、ときにぶつかりながら、新たな“言葉”を手に入れ、未来に向かって生き続けた。そのことを山中は、

「心無いあいつの悪口のおかげでここまで死ぬ気でやってこれた」
「優しいあの人の言葉のおかげでここまで踏ん張れた」
「結局、みんなの言葉が僕をここまで大きくしてくれた」
(はじめに/15〜16p)

 と表現している。そう、彼は過酷な経験から言葉を獲得し、それを武器にして新時代のロックスターへとたどり着いたのだ。

©Reishi Eguma (C-LOVe CREATORS)

 この本には、借り物ではない、生の感情のぶつかり合いから生まれた言葉が並んでいる。特に印象的だったのは、米津玄師と初めて出会ったときのエピソードだ。

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