本の続きが読めないなら生きている意味がないーー『死にたがりの君に贈る物語』が描き出す、深い小説愛

『死にたがりの君に贈る物語』を考察

 『Swallowtail Waltz』は、一度生きることを諦めた若者たちの物語だった。凄惨な過去を背負った13人の男女が、廃村となった集落の中学校跡に集い共同生活をはじめるのだが、世俗から離れた平穏を破る裏切り者の【ユダ】が紛れ込んでいることがやがて明かされる。コミュニティは少しずつ崩壊していき、5巻のラストでいちばん人気だったヒロインが悲惨な死を遂げるのだが、これが大炎上を呼び起こし、アニメ制作の中止にまで発展した。ミマサカリオリはいったいどんな落とし前をつけるのかーーファンもアンチも心待ちにするなか、けれど作家が筆をとることはなく、急逝の知らせ。続きを読むことができない、以上に、「なぜヒロインは死ななくてはならなかったのか」の答えがないまま突き放されてしまったことは、『Swallowtail Waltz』から生きる希望を見出そうとしていた純恋のような読者に、より深い絶望を与えたのだ。

 事態を重く見た担当編集者の杉本は、読者に結末を用意するため、ある画策をする。そうして始まるのが、杉本のいとこ・塚田主導で行われる“物語の再現”だ。ファンサイトで声をかけられた6人とともに、廃校になった中学校でキャラクターたちが行っていたような自給自足生活をなぞることで、どんな結末が用意されるはずだったのかを検証する、という試み。参加者のひとりである純恋は、この企画によってふたたび生きながらえた。だが、本当に原作どおりだとすれば仲間のなかには【ユダ】がいて、誰もがなにかしらの嘘をついている。そしてそこには常に、死の香りがまとわりついてくるはずで……。

 ファンの声に追い詰められて書くことをやめていたミマサカリオリが描こうとしていたものは何だったのか。共同生活の果てに訪れる結末は、さらなる絶望なのか希望の光か。人を生かすものがなにか、深い小説愛をもって描きだす本作は、著者の綾崎隼にとっても深く自問するものであっただろう。40作目となる同作にこめられた想いをぜひ受けとってほしい。

 ああ、それにしても『Swallowtail Waltz』を読んでみたい。人を死の淵から引っ張り上げ、キャラクターの死に全力で憤れるほどの力をもった作品に触れてみたい。綾崎さん、ぜひともご検討お願いします。

■立花もも
1984年、愛知県生まれ。ライター。ダ・ヴィンチ編集部勤務を経て、フリーランスに。文芸・エンタメを中心に執筆。橘もも名義で小説執筆も行う。 

■書籍情報
『死にたがりの君に贈る物語』
綾崎隼 著
定価:1,870円(税込)
出版社:ポプラ社

インタビュー

もっとみる

Pick Up!

「小説」の最新記事

もっとみる

blueprint book store

もっとみる