『葬送のフリーレン』はセオリーを無視した傑作だーー「死」から始まる物語の魅力

『葬送のフリーレン』の魅力を考察

 小学館が刊行する『週刊少年サンデー』の連載作品でセオリーを無視した作品がある。しかもその作品が「漫画大賞2021」にて大賞を受賞した、今最注目の話題作なのだから驚きだ。それが「サンデーうぇぶり」で『ぼっち博士とロボット少女の絶望的ユートピア』を連載していた山田鐘人と、『MEET UP』で「小学館新人コミック大賞」佳作に入選したアベツカサがタッグを組んだ『葬送のフリーレン』である。そこで本稿では本作の魅力や、作品に散りばめられた工夫を紹介していく。

 従来の漫画作品のセオリーとは異なり、「死」から始まる物語である本作。エルフの長寿を軸とした、感情と命の在り方を問う設定は非常に秀逸だ。

 魔王討伐のため冒険に出ていた勇者一行は、目的を達成し見事凱旋を果たす。10年という長い年月を共に過ごした仲間に、勇者・ヒンメルは労いの言葉をかけるも、魔法使い・フリーレンは涼しい顔で短い間だったと言ってのけた。フリーレンはエルフであり、人間であるヒンメル達とは比べられないほど長寿なのだ。

 勇者一行が50年に一度の流星群、半世紀流星(エーラ流星)を見ながら物想いに耽っていると、フリーレンは「50年後もっと綺麗に見える場所に案内するよ」と軽く言う。それを聞いて意味あり気に笑うヒンメルを見て、フリーレンは不思議な顔をしていた。

 そして50年が経ち王都に再び訪れたフリーレン。誰かに声を掛けられた彼女が、ヒンメルの名を呼びながら振り向くと、そこには頭のハゲあがった老人の姿が。「老いぼれてる…」と声に出すフリーレンに、思わずツッコむヒンメル。再会を喜ぶ2人だが、程なくしてヒンメルはこの世を去ってしまう。悲しい顔すら浮かべないフリーレンを、群衆は口々に非難する。しかしフリーレンにとって、ヒンメルはたった10年一緒に旅をしただけの“この人”なのだ。

 ヒンメルの死に立ち会い、なぜもっと知ろうとしなかったのかと涙を流したフリーレン。こうして彼女は人間を知る旅に出るのだった。

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