星一徹、磯野波平、海原雄山、さくらひろし……漫画キャラの父親たちが見せた“深い愛情”を検証
昭和の時代、父親は「地震、雷、火事、オヤジ」と称されるほど怖い存在だった。家長制度の名残もあり、暴力を振るうこともしばしばあったと聞く。
ところが現在は父親のあり方も変化し、「厳しいオヤジ」は敬遠される傾向が強い。かつて漫画に登場した「日本の父親」と呼ばれた人物たちも、「古い」「怖い」などと揶揄されることもある。そんな日本の父親たちだが、決して「厳しいだけ」ではなかった。今回はそんな漫画に登場する父親たちの「優しさ」を検証してみたい。
星一徹『巨人の星』
日本の漫画で描かれた父親で、現在最も厳しい評価を受けているのが、『巨人の星』の星一徹だ。
自身が巨人軍に入団しながら戦争で受けた負傷が原因で引退を余儀なくされたことから、息子・飛雄馬に夢を託し、巨人の星を目指して英才教育を施す。
その指導方法はまさに「スパルタ」で、スプリングを張り巡らせた「大リーグボール養成ギブス」の着用義務付けや、厳しい練習を義務として強制的にやらせるなど、非常に自己中心的と言わざるを得ないものだった。
また、飛雄馬が巨人に入団し、「大リーグボール1号」を引っさげてスターになると、一徹は中日ドラゴンズのコーチに就任し、アームストロング・オズマを指導し、魔球を打ち崩す。さらに飛雄馬の親友で、巨人の同僚だった伴宙太を中日に入団させ、仲を引き裂いたのも一徹。厳しい仕打ちに息子の飛雄馬が絶望したこともある。
そんな一徹だが、心の奥底では息子を想う一面を持っていた。貧乏長屋暮らしで高校進学が危ぶまれた際には、自身が日雇いの仕事などで貯金したお金を見せ、無事高校に入れている。また、幼少期の厳しい特訓で飛雄馬は巨人軍に入り、大金を手にしたうえ、花形満や左門豊作など良きライバルにも恵まれた。
一徹が心を鬼にして野球の才能を授け、巨人軍に入り、良い生活をする。この事実が最大の優しさだったのだ。
磯野波平『サザエさん』
星一徹とは違った古き良き「昭和のお父さん像」の代表格といえば、『サザエさん』の磯野波平だろう。
アニメでは長年声優の草分け的存在である永井一郎さんが声を担当し、磯野カツオを「バカモン」と怒鳴りつけるシーンが有名だった。『サザエさん』はアニメと原作で作風が大きく異なるが、波平という家長を中心とした家族という点は共通している。
「厳しい」「怖い」というイメージの強い波平だが、怒るときは決まってサザエやカツオが「間違ったことをした」ときのみだ。最近は怒る父親が減り、悪いことをしても「見て見ぬ振り」をしがちであると聞く。「悪いことを悪い」と指摘し怒る行為は教育であり、心の奥底に優しさを持っているからこそ、「バカモン」と注意するのだ。波平も優しさを持った人物と言えるだろう。