異世界転生ガチャは思い通りにいかない! 『蜘蛛ですが、なにか?』の面白さとは?

『蜘蛛ですが、なにか?』の面白さとは

 地下大迷宮でのサバイバルを経てモンスターとして成長し、外の世界へと飛び出した「私」がその後どうなるかは、小説版を読んでいけば分かるし、アニメ版でも4月以降の第2クールで描かれていくから見れば分かる。言えるのは、魔王が現れ「私」を巻き込み魔族と人とエルフとのバトルに発展していくということ。その勢力図で人間の側から立つ「勇者」もまた、魔法炸裂で死んだ教室の生徒のひとりだということは、1月からのアニメを見てきた人なら既に知っているだろう。

 勇者だった兄を魔族との戦いで失い、勇者の称号を引き継いだシュンは元は山田俊輔で、大島叶多という男子から公爵家令嬢に転生したカティアや、漆原美麗という女子から地龍へと生まれ変わったフェイらと共に冒険の旅に出る。最弱モンスターから成り上がっていく苦労が喜びに代わる「私」の物語とは別に、「勇者」「美少女」「地龍」「エルフ」「ゴブリン」「吸血鬼」等々、転生ガチャで何になるのが自分にとっては嬉しいかを感じさせてくれる部分もある。

 そんな登場人物たちを影で動かし、世界の命運をかけさせる存在も見えるストーリーが、小説版の第14巻でひとつのクライマックスを迎え、世界を救うための激しい戦いへと向かうことを予見させる。

 誰にとっての正義であり、何にとっての救済なのかが問われる展開が、人間こそ至上といった固定観念を打ち壊しそう。そうなって『蜘蛛ですが、なにか?』は、変化球としての異形転生から脱ヒューマニズムの正典となって、歴史に名を刻むことになるのだ。

■タニグチリウイチ
愛知県生まれ、書評家・ライター。ライトノベルを中心に『SFマガジン』『ミステリマガジン』で書評を執筆、本の雑誌社『おすすめ文庫王国』でもライトノベルのベスト10を紹介。文庫解説では越谷オサム『いとみち』3部作をすべて担当。小学館の『漫画家本』シリーズに細野不二彦、一ノ関圭、小山ゆうらの作品評を執筆。2019年3月まで勤務していた新聞社ではアニメやゲームの記事を良く手がけ、退職後もアニメや映画の監督インタビュー、エンタメ系イベントのリポートなどを各所に執筆。

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