『転生したらスライムだった件』誕生の裏側とは? GCノベルズ編集長・伊藤正和インタビュー

『転生したらスライムだった件』誕生の裏側

 「なろう系」の「異世界転生もの」で「B6判ノベルズ」という、今の出版業界を席巻しているひとつのフォーマットがある。香月美夜の『本好きの下剋上~司書になるためには手段を選んでいられません~』や、馬場翁『蜘蛛ですが、なにか?』などが当てはまり、書籍としてだけでなく漫画やテレビアニメにも展開されて、エンターテインメント市場を賑わせている。そんな盛り上がりの中心にあるシリーズが、伏瀬作でみっつばーイラストの『転生したらスライムだった件』だ。刊行しているのはマイクロマガジン社のGCノベルズ。

『転生したら剣でした』

 他にも『賢者の弟子を名乗る賢者』(作・りゅうせんひろつぐ、イラスト・藤ちょこ)や『転生したら剣でした』(作・棚架ユウ作、イラスト・るろお)といった、同種のフォーマットを持ったヒット作を出している。KADOKAWAや講談社といった大手出版社も同じ分野に力を入れる中、GCノベルズが早くに「なろう系」に目を向け、どのように『転スラ』を送り出し、今も戦い続けていられるのかを、GCノベルズ編集長の伊藤正和氏に聞いた。(タニグチリュウイチ)

『転生したらスライムだった件』の功績

――『転生したらスライムだった件』は3月31日に最新の第18巻が出ます。第1巻の刊行が2014年5月ですからもう7年近く続いていることになります。GCノベルズのスタートはこの『転スラ』からでしたね。

 そうです。GCノベルズを立ち上げた時の始まりの作品です。この作品のおかげで今まで続いているところがありますね。

――マイクロマガジン社というと、以前は「ゲーム批評」を出していて、あとは『琴浦さん』のようなコミックスを出している出版社といったイメージがありました。『転スラ』のような、小説投稿サイトの「小説家になろう」に連載されている作品を書籍化して刊行しようとなったのはなぜですか。

 僕が小説を編集したのは『転スラ』が初めてだったんです。元々は雑誌や漫画の編集をしていて、ここ(マイクロマガジン社)に来てからも『マンガごっちゃ』というウェブ漫画の投稿サイトをやっていました。ウェブから何かを書籍化するという流れになっていきましたが、他の出版社との取り合いも多くなって、何か他にないかとなった時、なろうの小説が気になりました。すでにアルファポリスから色々と出ていましたし、MFブックスも立ち上がっていましたが、文庫のライトノベルほど棚の競争が激化していなかったので、ここなら行けるかと思って飛び込みました。GCは、『マンガごっちゃ』の語源が“got a chance”だったので、そこから拝借しました。

――「なろう」の小説やライトノベルは以前から読んでたんですか?

 ライトノベルは、普通に『涼宮ハルヒの憂鬱』から始まって『灼眼のシャナ』や『ゼロの使い魔』などを読んでいました。あと、エンターブレインから出ていた『ログ・ホライズン』や『まおゆう 魔王勇者』が好きで、それでウェブ小説とか良いなと思うようになりました。まだ仕事にしていた訳ではないので、2012年とか2013年のなろう系小説、ウェブ小説は、無料で読めるコンテンツがこんなにあるんだという感じで、普通に楽しんでいましたね。

――そこから「なろう系」に目をつけ、『転スラ』に行き当たったという感じですか。

 なろうからの書籍化をやろうと思って、ジャンルの上からバッと読んでいった中に『転スラ』があって、読んでこれはやりたいと思いました。明確に覚えているんですが、家でゴロゴロしながら第2部にあたる『森の騒乱編』を読んでいて、そこでリムルがオークロードを取り込むにあたって、『お前だけじゃなく、お前の同胞全ての罪も喰ってやるよ』と言ったところで、ものすごく感動しました。他の小説では、主人公が強くて無双していくところは同じでも、ただ敵を倒していくだけのものが多かったんです。リムルは違っていました。第1部のシズさんの時もですが、相手の思いやそういったものを、自分の中で背負って生きていこうとするんです。他のキャラクターたちとは違った懐の深さが良いと思いました。

――それで、伏瀬先生に書籍化の声をかけられたと。伊藤編集長を感動させたほどの作品ですから、すでに幾つも誘いがあったのではないですか。

 それが、出版の話はまだどこからも来ていなかったみたいです。もしかしたら、主人公がスライムという所があったかもしれません。絵にしたときにイメージがしづらいといいますか。そうした出版状況から、どこも手を伸ばせていなかったんじゃないでしょうか。僕は門外漢だったからそこまで考えていませんでした。入社したばかりで、何かやりたいという気持ちしかなかったので、臆せずやれたのが良かったです。

――お声がけをしてから刊行まではスムーズに行ったんですか。

 伏瀬先生とはすごくやりとりしました。なろうからの小説化はうちでは初めてで、立ち上げの作品になるのでレーベルとしての前例もありません。よく応じていただけました。とにかく誠心誠意お願いすることだけ考えていました。協力出版的なものではないとははっきり言いましたし、値段が1000円に落ち着いたのも、伏瀬先生が読者のことを考えて、そうしたいという意向があったからです。出すと決まったときは嬉しかったです。本音で言うと不安も大きかったかな。せっかく受けていただいたのに、書籍化して鳴かず飛ばずだったらどうしようかと。作品への自負はありましたが、売ると言うことにまだ自信はなかったです。

――それが大ヒット!

 これほど評判が大きく広がるとは当時は思っていませんでした。今も伏瀬先生と実感がないですねえと話しています。どこが受けたのかは、小説やコミカライズ、アニメといった媒体によっても違うと思いますが、共通して、スライムという主人公のキャッチーさが大きくあると思います。あとは、話の展開が少年漫画的で、キャラクターが豊富で誰もが魅力的なところ。そこで1番の訴求力があるのがリムルというスライムです。

――みっつばー先生が描かれるイラストも、スライムやキャラクターの雰囲気を見事に表現していました。

 『転スラ』を読んでいて、凄く少年漫画チックだと思いました。ライトノベルと言うよりは、キャラクターの使い方がジャンプっぽいと思ったので、イラストレーターも少年漫画のテイストが入っている方がいないかと探していました。pixivでみっつばーさんを見つけて、自分のイメージに近いと声をかけました。スライムのデザインは、本当にこれ以外は考えられないというものが出てきました。相当、苦戦していたみたいです。スライムというと、あの偉大なスライムのデザインがあるじゃないですか。そのイメージをなかなか超えられないんです。あと、リムルのイメージだと、どこかにふてぶてしさがないといけない。作中では、リムルのスライム形態には目がないんですが、設定上はしわと言いつつ目らしきものを、デザインでみっつばーさんが入れてくれて、かわいらしくもふてぶてしいスライムというのができあがりました。

――構成も、書籍化にあたってウェブ版から変えてあります。

 シズさんが最後に出てきて終わっているので、そこへの伏線、シズさんの人生をもっと描いておきたいと話しました。読むペースを乱しているかもしれませんが、幕間としてシズさんが召還されて来てからのエピソードを入れました。リムルが転生してきてからの人生と、シズさんの人生を対比するような形で描いていって、最後に交差する構成をやりたいと伝えて、納得していただきました。やはり書籍は1冊の読後感やまとまりを意識します。どうやってまとめるかは、編集者の腕の見せ所ですね。

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