『呪術廻戦』『チェンソーマン』『怪獣8号』……人気ジャンプヒーローたちの意外な共通点

ジャンプヒーローたちの意外な共通点とは?

 それは、「主人公たちが“仕事”として魔物と戦っている」という点だ。そう、『呪術廻戦』では呪術高専、『チェンソーマン』では公安、『怪獣8号』では防衛隊の一員として、つまり、「職業」として、主人公たちはそれぞれ呪霊、悪魔、怪獣を退治しているのだ(注)。

注……『呪術廻戦 公式ファンブック』によると、呪術高専では、学生でも任務に赴き、呪霊を祓った場合は報酬が出るということが明記されている。また、『チェンソーマン』のデンジの雇用条件は不明だが、10巻でマキマ(公安4課を取り仕切る女性)は彼に「仕事を用意して お金をあげて」といっており、公安から(あるいはマキマ個人から?)相応の給料が出ているものと思われる。

 とまあ、これはこれで、先に述べた「主人公が魔物と“合体”して敵(悪)の力を取り入れている」ということとは別の意味で、いまの時代ならではの「リアルなヒーロー」の条件だといえるだろう。

 たとえば、「魔物と合体したヒーロー」の物語といえば、その元祖として、永井豪の『デビルマン』を思い浮べる人も少なくないだろうが、かの名作の主人公のそもそもの戦う動機は、「人類を悪魔から守るため」というものだった(やがて彼はその人類から裏切られるのだが……)。つまり、こうした、なんの見返りも求めず、無償で他者のために命を賭して戦うヒーローを、当時の読者たちは信じられたということだ。しかしいまの若い漫画読者たちにとってはどうだろうか。

 むろん、今回のランキング上位3作の主人公たちにも、「純粋な正義の気持ち」がないわけではない。『チェンソーマン』のデンジだけは、徐々にヒーローとしての自覚が芽生えていくように描かれているが、それ以外のふたり――『呪術廻戦』の虎杖悠仁にとっては、祖父の「オマエは強いから 人を助けろ」という“遺言”が、『怪獣8号』の日比野カフカにとっては、かつて破壊された街を見つめながら、幼なじみの少女と誓った「二人で怪獣を全滅させよう」という言葉が、「命賭けで戦うための原動力」になっている。

 だが、それでも、「現代を生きるリアルなヒーロー像」ということを考えたとき、「魔物を倒すことで報酬を得る」という設定はかなり重要な気がするのだ。現実の世界でも、警官、消防士、自衛官などに、「なぜあなたは他者のために命を賭けられるのですか?」と訊いてみたら、彼らはおそらく、「それが自分の仕事だから」と答えることだろう。そしてその答えはもちろん、「誰かを助けたい」という正義の気持ちと矛盾するものではないのだ。

 そう、たとえ「ヒーロー」と呼ばれる存在であろうとも、生きていくためにはお金を稼がないといけないわけであり、そんな彼らが「魔物を倒すことで報酬を得る(それゆえに真剣になる)」のは当然のことだといっていい。そしてそのひとりの「生活者」でもある現代のヒーローたちのリアルな勇姿は、やがて数年後には社会に出ていく少年読者たちに、「働くこと」の大事さとカッコよさを教えているのだ、というのは、いささか強引な結論だろうか。

■島田一志……1969年生まれ。ライター、編集者。『九龍』元編集長。近年では小学館の『漫画家本』シリーズを企画。著書・共著に『ワルの漫画術』『漫画家、映画を語る。』『マンガの現在地!』などがある。https://twitter.com/kazzshi69

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