自殺志願少女との恋愛小説、なぜ支持される? 『死にたがりな少女~』から考える、若者を取り巻く状況

自殺志願少女との恋愛小説、なぜ読まれる?

4人に1人が本気で自殺を考えたことがある国・日本

 厚労省の発表によると日本の2020年における総自殺者数は2万1,077人(暫定値)だったが、小学生が15人、中学生が145人、高校生338人の合計498人に上り、1978年の統計開始以来最多だった1986年の401人を超えている。

 自殺者が全世代的に減少するなか、10代は唯一、ここ2年増加している。15~39歳の各年代の死因は自殺が最も多い。これは先進国では日本だけだ。

 若年層の自殺に関して遺書などから推定できた原因・動機を1人につき3つまで計上した結果、学校問題202人、健康問題138人、家庭問題116人。

 また、日本財団の調査によれば、日本に暮らす18~22歳の若者のうち、4人に1人が自殺を本気で考えたことがあり、10人に1人が自殺未遂経験がある。原因の半数が学校問題を占め、さらにその半数は「いじめ」が原因だ。

 つまり自殺したいという気持ち(を抱えた人)は、残念ながら日本の中高大学生にとっては身近なものだ。多くの読者にとって他人事ではない物語として『死にたがりな少女の自殺を邪魔して、遊びにつれていく話。』や『飛び降りようとしている女子高生を助けたらどうなるのか?』は受容されているのかもしれない。

 若者の悩みの相談相手のトップは母親であることが、社会調査で明らかになっている。逆に言えば、家庭が悩みを打ち明け、弱さを見せられる場所として機能していない場合には、思い詰めることに歯止めをかける場所はきわめて少なくなる。偶発的な何かが起こってくれでもしないかぎりは――というわけで、両作における、学校にも家庭にも居場所がない自死念慮者に対して偶然救いの手を差し伸べてくれる存在の希求/登場は、これまたやはり現在の状況に即して理に適ったものだと言える。

 現実とこれらのフィクションで大きく異なる点としては、自殺念慮者(および実際の自殺者)には女性よりも男性が多く、男性は女性よりも相談できる/する相手が少ないことが挙げられる。だからこそ、フィクションに安寧の場所を求めるのかもしれないが。

 自殺を題材にしたライト文芸/ラノベが流行してほしいとはまったく思わないものの、「ぼっち」をネタにしていられた2010年代は“通過点”にすぎなかったのではないか、という気にさせられた2作だった。

■飯田一史
取材・調査・執筆業。出版社にてカルチャー誌、小説の編集者を経て独立。コンテンツビジネスや出版産業、ネット文化、最近は児童書市場や読書推進施策に関心がある。著作に『マンガ雑誌は死んだ。で、どうなるの? マンガアプリ以降のマンガビジネス大転換時代』『ウェブ小説の衝撃』など。出版業界紙「新文化」にて「子どもの本が売れる理由 知られざるFACT」(https://www.shinbunka.co.jp/rensai/kodomonohonlog.htm)、小説誌「小説すばる」にウェブ小説時評「書を捨てよ、ウェブへ出よう」連載中。グロービスMBA。

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