俺たちの『チェンソーマン』はまだ終わっていないーージャンプ大好き評論家3名が討論【後編】

『チェンソーマン』座談会【後編】

どこまでが“俺の『チェンソーマン』”か?

岡島:『幽☆遊☆白書』って、当時は「ジャンプ」本誌の連載と巻末の作者コメント、単行本の作者コメントとおまけページも含めて『幽☆遊☆白書』だったじゃないですか。『チェンソーマン』はネットなどのオフィシャルな展開やTwitterの反応とかも含めて一つの作品になっていたので、だからこそまだ僕は100%のカタルシスに至っていないのかもしれません。まだ自分の中で全然消化できていないというか。

成馬:岡島さんの中ではまだ続いているわけですね。『幽☆遊☆白書』の話はすごくよくわかります。僕は当時、『幽☆遊☆白書』の14巻から19巻だけを延々繰り返して読んでいて、連載終了後も「もし魔界編に続編があったらどんな話になるのか」とか、「幽助と誰が組むのがベストなのか」とか、下手するともう何十年も考え続けているんですよね。ただ、そうなってくると、もはや今まで妄想してきた記憶込みで『幽☆遊☆白書』なんですよね。すでに俺だけの『幽☆遊☆白書』が脳の中に存在するというか(笑)。だから、冨樫先生にリメイクして欲しいとか、新作アニメで未回収の伏線をどうにかしてほしいとか、まったく思わなくなってしまいました。

倉本:いいなあ。オタクのあくが素敵に凝縮されてますね(笑)。

成馬:ほかの作品に関しては、あんまりそういうことを言わないんですけれど「『幽☆遊☆白書』だけはちょっと譲れない」みたいな気持ちがあるんですよね。だから、マキマさんの気持ちはよくわかる。『チェンソーマン』は連載開始当初、主人公が馬鹿で無知だから強いという設定に対する評価が高かったじゃないですか? ところが劇中でデンジくんはだんだん知恵を獲得していって、結果的にマキマに支配されていることに抗うために必死で頭を使うようになるんですけど、この展開自体、読者から「こんなのチェンソーマンじゃない」って言われる可能性もあったと思うんですね。だからマキマさんには、熱烈な信者からアンチに変わってしまう熱狂的なファンのイメージも投影されていたのかもしれないですね。

倉本:少年漫画だと、最初はつつましくも幸せな生活をしていたのが、悪い奴らに全てを奪い尽くされて、復讐するみたいな流れが王道じゃないですか。でも、『チェンソーマン』は最初がギリギリの状況で、マキマさんに拾われて最低限の生活をするようになって、また奪われるという。そういう構造は珍しいですよね。

岡島:僕はデンジの夢が「普通の暮らし」というのが新しかったと思います。それと、悪と戦うことの動機付けが正義感とかではなく、「おっぱいを揉みたい」から始まって、それが叶ったら今度はセックスがしたいっていう感じで、性欲なんですよね。少年がリアルに感じる切迫した欲求を戦う動機に位置付けたところが、少年漫画として上手いし、かつギャグとしてもとても良いなと感じていました。感情移入しやすい作りになっている。

倉本:少年漫画だから、直接的に性器を用いる行為としてのセックスを描くことはしていないけれど、性的な表現それ自体はいっぱい出てくるし、かなり踏み込んだ形で描かれていますよね。パワーちゃんに血を飲ませるシーンとか。ある意味ではカニバリズムもそう。

成馬:マキマさんがパワーちゃんを撃ち殺した後に、デンジに対して今まで自分が仕組んできたことをバラして、「これからデンジ君が体験する幸せとか普通とかはね」「全部私が作るし全部私が壊しちゃうんだ」と言うじゃないですか。あそこでマキマさんのことを大嫌いになった人は多いと思うのですが、僕には「あなたは私のものよ」って言っているように聞こえて、凄く痺れたんですよね。「幸せを与えて全部を壊す」って、見方によっては究極の愛じゃないですか。

岡島氏が推す「パワーたん」が描かれた『チェンソーマン 2』

岡島:なんて歪んだ見方……成馬さんの性癖は歪んでる(笑)。たぶん成馬さんはマキマさんが好きだったから、読みやすかったんですよ。パワーちゃんのほうが好きだったら、多分ちょっと違う感想になるから。

倉本:岡島さんはとにかく「パワーたん推し」でしたもんね。じゃあ、パワーたんが死んじゃったところで「俺の『チェンソーマン』」は終わったの?

岡島:終わってないけれど、パワーたんがデンジに「イジけるくらいワシが恋しいか!?」って聞いて、デンジが「恋しいよ…」って言うシーンがあるじゃないですか。あそこで『チェンソーマン』は名作になったと確信したんです。個人的に「少年が少女に生きる意味を与えられて救われる」っていうストーリーにめっぽう弱いので。で、パワーたんが「ワシを探してくれ」みたいなこと言っているわけですから、やっぱりファンの心情としてパワーたんとデンジの再会は描いてほしいですね。最後にデンジがマキマさんを料理にしたときの肉だけカレーも、もしかしたら野菜が嫌いなパワーたんでも食べられるようにしたのかなと思ったり。

倉本:こっちも濃い目のあくが凝縮されてるな(笑)。あのシーン、個人的には「デンジ、そんなに上手に料理できるようになったんだ」っていう感慨がありました。最初の頃はパンにピーナツバターとジャムを塗るだけで机をべったべたにしていたのに。

岡島:ちゃんと成長したんですね、デンジは。ラストで高校生になって「女しか助けない」っていう設定になっていたけど、第2部ですげえヤリチンになってたら嫌だなぁ……。

一同:ははは(笑)。

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