大相撲の裏方「呼出」の知られざる努力とは? 新人作家・鈴村ふみ『櫓太鼓が聞こえる』の真摯さ

新人作家・鈴村ふみ『櫓太鼓が聞こえる』

 取組前、土俵脇で関取の名を読み上げる17歳の新米「呼出」、主人公の篤が所属する朝霧部屋は十両以上の関取がいない相撲部屋だ。学校に馴染めず高校を中退し、親の反対を押し切ってこの世界に入った篤は、才能あふれる呼出の先輩や、部屋の親方関取、相撲ファンに囲まれて日々切磋琢磨しながら仕事を続けている。だが彼の心は、「どうせ俺なんて」という考えに常に襲われている。

 周囲と自分を比べて焦り、努力してもなかなか上達できない篤。一方で、勝ち星や番付で価値が決められてしまうようにも見える土俵の世界に身を置く同部屋の関取の悩みと奮闘も、彼の現状と相まってよりこの小説の本質を深めている。

「なんで、そんなに頑張れるんですか」
そう尋ねると武藤さんは、
「俺には才能がないから。人一倍頑張るしかないんだ」と淡々とした口調で答えた。

 努力する、頑張るというのも簡単に答え(結果)が出ない行為だ。許容量も違うし、才能という言葉の重さも人それぞれ。その上で真っ直ぐに未来を見据える彼らの、輝きだけではない、ひたむきに泥臭くもがき続ける姿を丹念に描く著者の姿勢が好ましい。著者が心の底から篤や関取達を信頼しているからこそなのだろう。彼らがいる世界をいたずらに美化せず、不器用だけど一歩一歩前に進んで行く姿に眩しい想いを感じさせる青春小説だった。

 登場人物の想いをくみ取った著者は、この物語と登場人物に真摯に伴走した当事者であり、このデビュー作をスタートラインに一作一作書き続けていく作家である。これからの活躍を楽しみにしたい。

■山本亮
埼玉県出身。渋谷区大盛堂書店に勤務し、文芸書などを担当している。書店員歴は20年越え。1カ月に約20冊の書籍を読んでいる。会ってみたい人は、毒蝮三太夫とクリント・イーストウッド。

■書籍情報
『櫓太鼓がきこえる』
著者:鈴村ふみ
出版社:集英社
価格:本体1,600円+税
https://books.shueisha.co.jp/items/contents.html?isbn=978-4-08-771744-0

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