ホラー作家・背筋「『怖い』という感情にも様々なグラデーションがある」 新刊『目が』で目指した恐怖表現

ホラー作家・背筋、新たに目指した恐怖表現
背筋『目が』(ポプラ社)

 7月3日に公開される映画『口に関するアンケート』の原作者・背筋による新刊『目が』(ポプラ社)が発売中だ。

 『目が』は、『口に関するアンケート』と同じく71ページの豆本サイズとなっており、連作短編形式のような味わいもあるホラー小説となっている。

 『近畿地方のある場所について』(KADOKAWA)の大ヒット以降、もっとも注目を集めるホラー作家の一人となった背筋は、本作をどのように構想したのか。映画『口に関するアンケート』への感想とともに伺った。

『口に関するアンケート』とは、異なるテイストの作品

背筋

――背筋さんの最新作『目が』は、『口に関するアンケート』に続きポプラ社で刊行する豆本サイズの小説第二弾です。そもそも豆本サイズでの刊行にはどのような経緯があったのでしょうか?

背筋:『口に~』は元々ポプラ社の「WEB asta」へ短編の寄稿をご依頼された際に執筆したものです。そのため、当初書籍化を想定しておらず、特に単行本化する際の判型なども考えていなかったのですが、執筆後にポプラ社の方から「読書の間口を広げるための施策の一つに小型版の書籍を刊行するというものがあるのですが、ミニサイズの本で刊行しませんか?」、というお話をいただいたんです。近年の読書離れや書籍価格の上昇などに応じて「気軽に手に取れる本」を作りたいという思いから立ち上がった企画とのことですが、ちょうど作品の語りや構造に最適な企画であると思い、「ぜひ小型版で刊行しましょう」とお返事をしました。

――実際に豆本サイズの自作をご覧になった際はどのように感じましたか?

背筋:ずばり言うと「読書に苦手意識を持つ人にも手渡ししやすい」と思いました。本を読み慣れていない人、特に若年層へ向けて読者の入り口になるような作品を選ぶ際、分厚い本をいきなり薦めるのは躊躇してしまう人が多いかもしれません。でも、このサイズであれば「取りあえず読んでみようかな」と受け取ってくれるだろうと思い、お薦めする際の心理的ハードルが下がるのではないでしょうか。

背筋『口に関するアンケート』(ポプラ社)

――そうした判型だけではなく、『目が』と『口に~』では体の部位がタイトルに入っているという共通項があります。これは連作のようなものを意図した結果なのでしょうか?

背筋:タイトルを付ける際は何となく前作との統一感は出した方が良いかな、と思いましたが、シリーズとして連続性があるものにしようという意識は全くありませんでした。『目が』の着想は過去に宝島社のアンソロジーで発表した、とある掌編のテーマをもう少し掘り下げてみたいという思いから生まれたものです。ネタばらしにならないよう詳細は伏せますが、その作品のテーマが別の題材と結びついた時に目をモチーフにした物語が思い浮かんだんです。私は一見、無関係な要素のあいだに共通点を見出すことで物語を考えることが多いのですが、『目が』もその一つです。

――『目が』は複数の章で構成される物語で、連作短編形式のような味わいもある一冊になっています。

背筋:本作で目指したのは幕の内弁当のように多彩な恐怖体験を味わうことが出来るホラー作品です。例えば「視線」と題された章では、アカデミックなアプローチで恐怖に迫っていく様子を描き、怖さがじわりと滲み出てくるような書き方を目指しました。いっぽう「神様」という章は、「視線」とは対照的に直接的な恐怖の描写を試みています。ちなみに編集段階では「神様」が「想像するだけでも気持ちが悪くなるような怖さがある」ということで編集者の方からは評判が良かったです。

――確かに「神様」の章には怖いものをストレートにぶつけてくるような感覚がありました。

背筋:とにかく『目が』では恐怖の質を章ごとに変えて、「怖い」という感情にも様々なグラデーションがあることを読者に味わってもらいたかった、という思いがあります。その意味では恐怖小説としてのトーンが一冊の中で統一されていた感のある『口に関するアンケート』とは、異なるテイストの作品が出来上がったのではないかと思います。

物語の面白さを追求する必要がある

――いっぽうで連作短編形式に近い物語として読むと、ミステリ小説のような仕掛けが浮かび上がってきます。本作に限らず、背筋さんの作品にはミステリ的な興趣で読ませる部分もあると思います。

背筋:それは自分のホラー小説観から来ているものかもしれません。私はホラー小説には二つの評価軸があると思っています。一つは当然ながら「怖いこと」ですが、もう一つは「物語として面白いか」、もっと言えば「エンターテインメント作品として読者を驚かせたり楽しませたりすることは出来ているのか」ということです。ホラー小説として怖がらせることは必須条件だと思いますが、それ以前にホラーというジャンルに興味がない人でも楽しんでくれるような物語の面白さを追求する必要があると考えています。怖さだけ突き詰めても、怖いものが苦手だったりホラーに関心が無い読者にとってはセールストークにはならない。読者が広がらなくなると思うんです。だからこそ自分は怖さとは別の驚きやカタルシスを入れることを心掛けています。どこかに伏線を張って、それが回収される楽しみを書くことは出来ないかな、と隙あらば考えている自分が常にいるんですね。それはミステリ的な興趣を盛り込んでみようというジャンルありきの発想というより、エンターテインメントとして見せ場を作るという意識の方が強いと思います。

――お話を伺っていると、背筋さんはジャンル以外のファン、更には普段は小説を読まない人の視点を常に意識していらっしゃるような気がします。『目が』が本の造りやデザインに凝っているのも、そうしたファンダムの外側にある読者に興味を持ってもらうことを念頭に置いているためなのか、と思いました。

背筋:『口に~』と『目が』は自作の中でも特に造りやデザインに拘っている本だと思います。この点については私の方からも積極的に編集者の方へ意見は出しました。もちろん文章を読むだけでも十分に作品は楽しめますが、プラスアルファの体験を味わってもらうための工夫や拘りというのは読者を拡大する上で必要だと感じているからです。『目が』はいったん読み終わった後に、最初に戻って読み返していただくと何か面白い発見があるかもしれません。本の造りやデザインへの提案を行うのは、そういう体験の品質を強化するための作業として自分自身では捉えています。

――「体験の品質を強化する」という表現が興味深いと思いました。

背筋:語弊があるかもしれませんが、自分の中では小説を書くというより「読者に満足してもらえるような商品とは何か」を考えるという感覚の方が近いんです。もちろん、自分の書きたいもの、表現したいものがまずあって文芸作品は成り立つと思います。ですが自身の作家性に拘泥することより、とにかく読者に楽しんでもらえるような作品の形を追究追求していくことの方が、少なくとも今の私にとっては重要ではないだろうか、と考えています。

――何故でしょうか?

背筋:現在の出版業界では、とにかく読書の間口を広げる必要があると感じているからです。『口に~』や『目が』で行った試みは、もしかしたら「これはホラーなのだろうか?」「これは小説なのだろうか?」と疑問を抱く読者がいるかもしれません。しかしジャンルはかくあるべし、小説はかくあるべしということに拘り過ぎると、読者の裾野が広がっていかない気がするんです。豆本という判型や、意図不明なテキストが本文に挟まれるデザインなどを大勢の読者が面白いと思ってくれるのであれば、そのニーズに寄り添っていく必要はあるのではないでしょうか。そうでないと、そもそも本を手に取ってくれる人がどんどん減っていってしまう。こういう危機意識をずっと抱いていたので、ポプラ社さんから『口に~』や『目が』のような挑戦的な企画にお声がけいただいたのは本当に嬉しかったです。

自分はあくまでも「物語ファースト」の考え方

――読者を広げるためならば、あらゆる手を尽くすという背筋さんの姿勢を感じます。

背筋:はい。ただし「パッケージのアイディアをありきで物語を考えた方が良い」という姿勢は自分の中にはありません。『口に~』の企画成立過程を思い出していただければ分かると思いますが、自分はあくまでも「物語ファースト」の考え方を取ります。面白い物語がまず存在し、その後で「この物語をより多くの読者へ届けるためにはどうすれば良いのか」ということを考える。自分の生み出した物語とパッケージの接点を探るという姿勢は『目が』にも貫かれています。

――背筋さんの出版業界への思いが詰まった『口に~』と『目が』ですが、『口に~』は7月3日より実写映画が公開されます。監督は〈呪怨〉シリーズで日本ホラー映画の魅力を世界に広めた清水崇さん。2020年代のホラーブームを牽引する背筋さんの作品を清水さんが監督するというのは、非常に感慨深いものがあります。

背筋:もともと清水崇さんの大ファンでして、清水さんが監督と伺った際には本当に嬉しかったです。初号試写で拝見した時は、とても感激しました。原作の『口に~』は恐怖がじわじわと侵食していくような感覚がありますが、そこが見事に表現されている場面がある。かと思えば清水作品の特徴でもある「恐怖の対象をストレートに映して震え上がらせる」という演出も織り込まれている。原作を良く読み込んでいただいた上で独自の解釈を行い、ご自身の作風にもしっかりと合わせるということをされているんですね。演出のレンジが広いと言いますか、素晴らしいと思いました。『口に~』は読書の裾野を広げるという思いが込められた作品ですが、清水監督の映画を通してより多くの方に手に取ってもらえるようになれば幸いです。

■書誌情報
『目が』
著者:背筋
価格:715円
発売日:2026年6月25日
出版社:ポプラ社

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