後藤正文の『ISHIYA私観 ジャパニーズ・ハードコア30年史』レビュー:醜さも汚らしさも丸ごと抱きしめられるような美しさ

後藤正文の『ハードコア30年史』レビュー

 ハードコアパンクは憧れでありつつ遠い存在だった。

 何の不良性も持たない後藤少年にとって、ライブハウスは殴られに行くような場所だった。ライブに参加した同級生の「パンチ合戦」なる言葉に恐れ慄き、自分とは縁遠い世界だと考えていた。

 そんな高校時代、友人に貸してもらったテープに入っていた曲のことを今でも強烈に覚えている。

「野方一丁目、クソババア、ファックオフ」

 「にら子供」というバンドの曲で、衝撃的だった。はっきり言うと、セックスピストルズよりも印象的だった。深堀りするでもなく僕は大人になったが、ISHIYAさんが結成時のメンバーだと言うのだから、人と人との繋がりは予測不能で面白い。当時ならば、200メートル先に見つけただけで逃げ出したかもしれない。

 東日本大震災のあと、僕が勇気づけられたのは、体ひとつで、あるいは大量の物資とともに被災地に向かうパンクスたちだった。憧れるだけではなく、パンクスの末席に座りたいと心の底から思った。あとは行動するのみだった。

 政治家たちは、歴史はおろか、自分たちが吐いた言葉や行ったことすら改竄し続けている。

 僕たちのすべきことは何か。

 橋の下に広がる無縁の世界を例として引きながら(それは網野善彦が書き続けたことでもある)、大きな問いを投げて本書が閉じられているところも、素晴らしいと思った。

■後藤正文(ASIAN KUNG-FU GENERATION)
ASIAN KUNG-FU GENERATIONのボーカル&ギターであり、ほとんどの楽曲の作詞・作曲を手がける。
2010年にはレーベル「only in dreams」を発足させ、webサイトも同時に開設。
エッセイや小説、朝日新聞でのコラム連載「後藤正文の朝からロック」や新聞『THE FUTURE TIMES』を編集長として発行。
また新進気鋭のミュージシャンが発表したアルバムに贈られる作品賞『APPLE VINEGAR -Music Award-』を立ち上げるなど
音楽はもちろんブログやTwitterでの社会とコミットした言動でも注目されている。

現在、最新作としてソロアルバム『Lives By The Sea』をリリース。
asiankung-fu.com
gotch.info

■書籍情報
タイトル:『ISHIYA私観 ジャパニーズ・ハードコア30年史』
著者:ISHIYA(FORWARD/DEATH SIDE)
ISBN:C0073 978-4909852-13-7
発売日:2021年1月10日(日)
価格:2,500円(税抜)
発売元:株式会社blueprint

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